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進学案内資料 東京大学理学部物理学科 2018

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  • 進学案内資料

    東京大学理学部物理学科

    2018 進学案内資料 東京大学理学部物理学科

    2018

    http://www.phys.s.u-tokyo.ac.jp/

    東京大学理学部物理学科〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1TEL:03-5841-4242(代表)

    《 画像について 》

    左)超解像顕微鏡でみたミトコンドリア外側表面:  図の左上側は従来の顕微鏡像で、右下側が我々の開発した超解像顕微鏡による像。  ミトコンドリアの外側表面の膜の複雑な動態が世界で初めて観察された。

    右)チリアタカマ高地に建設中のSimons Array望遠鏡群(手前):  138 億年を経て今もなお地球に降り注ぐ光(電波) である「宇宙背景放射」を  最先端の電波望遠鏡で精密測定することを目指している(写真:Mark Devlin)。

  • 大きな夢と、実現する力と、少しの勇気を身につけて

    物理学専攻長、物理学科長 山本 智 現在、世界は経験したこともないさまざまな課題に直面し、容易に先を見通せない時代を迎えつつあります。今、大学生という最も成長できる年齢にある皆さんが、この時代を生き抜くために求められていることは、原点に立ち戻って課題を整理し、その本質を見抜き、それを解決に導く力を身に着けることです。実は、これはまさに物理学の方法論です。物理学は、実験と理論を両輪に、我々を取りまく森羅万象の本質を一つ一つ解き明かし、普遍的な法則や概念にまとめ上げてきました。この方法論は、物理学自体を常に深化させるとともに、天文学、地球科学、化学、生物学などの理学の分野のみならず、工学、情報学や経済学の分野にまで対象を広げてきました。今や、物理学はありとあらゆる科学の基礎とそれらの発展を支えていると言ってもよいでしょう。同時に、物事を原点から論理的に考える力は、科学の世界のみならず、現代社会のあらゆる分野で求められていることでもあります。

    19 世紀末から発展してきた近代物理学は、さまざまな実験事実をもとに、物質が分子や原子からなることを突き止め、さらに原子核を構成する素粒子を発見してきました。21 世紀に入り、質量の起源をも解明し、ダークマター、ダークエネルギーの正体にも迫ろうとしています。今や物質の成り立ちの探求は、宇宙の始まりとつながりつつあります。一方、熱力学や統計力学は、対象やスケールの違いを超えて多様な系を理解する上で大きな役割を果たし、その上に物性物理学、非平衡物理、生物物理、量子情報などの世界が大きく発展しつつあります。また、レーザーを駆使したフォトンサイエンスは、極低温物理の世界を革新し、超精密な時計を実現し、アインシュタインの最後の宿題である重力波の検出を成功させました。このように物理学は大きく発展しつつありますが、常に一つの謎が解決すると、また新たな謎が生まれてきます。自然はそれほど深いものです。 物理学科では、世界的にも卓越した物理学者である 40 名近くの教授・准教授・講師が在籍し、物理学の広い分野をカバーして教育・研究を行っています。学部3・4年時では、量子力学、統計力学、電磁気学、相対論など物理学の基礎となる講義だけでなく、充実した実験カリキュラムも用意されており、理論・演習・実験をバランスよく学ぶことができます。4年時には研究室に所属して最前線の研究に触れる機会もあり、大学院での研究へとつながっています。 物理学科での学びで、ぜひ大きな「夢」を育んでください。ぜび、自分が成し遂げたい

    ことを見つけてください。充実したカリキュラムで鍛えた強い「力」と少しばかりの「勇気」をもって、その「夢」に向かって自分の道を切り開いて行ってください。私たち物理学科の教員は、そのような皆さんを全力で応援します。

  • 氏名 専攻分野 研究内容

    相原博昭 高エネルギー物理学 高エネルギー素粒子実験を専門としている.:高エネルギー加速器研究機構(KEK)のスーパーBファクトリー(SuperKEKB)を使った粒子・反粒子非対称性(CP非保存)や,B中間子やタウレプトンの稀崩壊の測定をもとに,素粒子の標準理論を越える新しい素粒子物理法則を探索している. J-PARCの大強度陽子加速器で発生させたニュートリノビームを使ってニュートリノの性質の精密測定を行っている.さらに,すばる望遠鏡を使ったダークエネルギーの研究も推進している.

    浅井祥仁 素粒子物理学実験 (1)世界最高エネルギー・LHC加速器を用いたアトラス実験において、標準理論を超えた新しい素粒子物理学を切り拓く研究:物質の質量の起源を担うヒッグス粒子の発見や、超対称性粒子の発見に向けた研究を行っている。ATLASグループの超対称性研究の責任者 (2)ポジトロニウムなどを用いた非加速器、小実験を通して、QEDの精密検証やAxionやDark Enegyなど新しい素粒子現象の探索を行う。

    安東正樹 重力波物理学・相対論実験

    宇宙を見る新しい目として重力波天文学の発展を目指す。岐阜県・神岡の地下サイトで建設が進められている大型低温重力波望遠鏡 KAGRA(かぐら)の建設、および、将来の宇宙重力波望遠鏡DECIGOのための基礎開発研究を推進する。また、それらに用いられる最先端のレーザー干渉計技術を利用した、相対論検証実験や量子光学的手法を用いた精密計測研究も行う。

    井手口拓郎 光科学 先端レーザー光源を用いた光科学。特に、光周波数コムなどの超短パルスレーザーを駆使した超高速分光計測や、顕微イメージング手法を開発している。これらの手法は、物理学のみならず、化学、生物学、医学、薬学、マテリアル科学等の分野での強力なツールとなり、新しい研究分野を創出する可能性を持つ。また、光技術とナノ工学、マイクロ流体工学などを融合することで、新しい異分野融合型研究の創出を目指している。

    上田正仁 冷却原子気体、情報熱力学、量子情報、物性理論

    冷却原子気体の理論(ボース・アインシュタイン凝縮、フェルミ超流動)、情報熱力学、量子情報・測定、物性理論

    江尻 晶 プラズマ物理学 プラズマ物理。プラズマは、大自由度、非線形、非平衡で特徴づけられる。これらから生じる物理を明らかにするために、プラズマで観測される揺らぎに焦点を当てた研究を行っている。当研究室は高瀬教授とともに、TST-2球状トカマク装置(東大)を用いて実験を行っている。さらに、LHD装置(核融合研)、QUEST装置(九大)との共同研究も行っている。

    岡田康志 生物物理学 当研究室では、超解像顕微鏡など最先端のイメージング技術を開発し、これを用いて細胞内で営まれる生命現象の定量的な計測を行っています。たとえば、神経細胞内の物質輸送の分子機構の研究を通じて、細胞内のタンパク質分子重合体である微小管が構造相転移により輸送を制御していることを示してきました。また最近では、非平衡統計力学の揺らぎの定理を応用することで、細胞内での力学計測が進んでいます。このような物理学的なアプローチを通じて、生命とは何かという問いに迫りたいと考えています。

    岡本 徹 物性物理学 低次元電子系を中心とした物性実験。液体ヘリウム温度から希釈冷凍機を用いた極低温にいたる温度領域において、半導体二次元電子系や金属単原子層膜を対象に、量子ホール効果や超伝導をはじめとする量子現象の解明や新奇現象の探索を行っている。特に強磁場中の電気伝導特性や走査トンネル顕微鏡を用いた電子状態の観察などに興味をもっている。

    小形正男 物性理論 物性理論:凝縮系とくに量子現象が顕著に現れる多電子系の理論。強い相関のある電子系、高温超伝導の理論、磁性、有機伝導体などの低次元伝導体、メソスコピック系、 軌道・スピン・電荷の複合した物質、従来と異なった新しい超伝導現象など。場の理論的手法、厳密解、くりこみ群、変分法、計算機シミュレーションなどの手法を用いる。

    桂 法称 物性理論、統計力学 [物性理論] 相関の強い多体系(電子系, ボゾン系, スピン系, ...)における磁性・強誘電性・量子ホール効果・超伝導などの物性および新奇現象の理論的研究。平均場近似やスピン波理論などの従来的な手法に加えて、場の理論や数理物理学的手法、数値的対角化などを組み合わせて多角的にアプローチする。 [統計力学] 古典・量子統計力学における可解模型の代数構造の研究、およびその量子情報・物性への応用。非線形現象・フラクタルなどの数理構造の解明。

    KathrinWIMMER

    ExperimentalNuclear Physics

    Our research focuses the structure of radioactive nuclei. Exotic nuclei, far away from stability, showmany interesting features which are not understood yet. We use direct reactions to populate statesin the exotic nuclei and state-of-the-art experimental equipment. Employing various spectroscopictools we can gain new information on the properties of exotic nuclei and therefore a deeperunderstanding on the underlying mechanisms.

    7. 東京大学理学部物理学科  教員一覧

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  • 氏名 専攻分野 研究内容

    金子邦彦 複雑系生命科学、普遍生物学、非線形動力学

    生命システムがみたすべき普遍的論理を、統計物理、力学系理論のウィングを広げながら、解明する、特に、部分(ミクロ)からなる全体(マクロ)が決まらないと 部分の性質が決まらない「複雑系」の視点をふまえて、複製、適応、発生、分化、進化などの普遍法則を探り出す。一方で、大自由度力学系の中に、生命らしい性質や認知過程の基盤がいかにして宿るかにも興味がある。

    北川健太郎 物性物理学 固体中の電子が織りなす磁性や超伝導の新しい秩序形態の発見を目指している。アプローチとして新しい無機化合物結晶を探しだす他、最先端の複合極限環境下実験手法で物性を制御し新量子相を発現させている。後者では、極低温・超高圧・強磁場下における精密な実験(磁場方向制御のマクロ及び核磁気共鳴測定)により固体中の磁性不安定点・量子臨界点近傍の物性を電子スピンの秩序構造とゆらぎの両面から明らかにした上で開拓していく。

    日下暁人 宇宙物理学実験・観測的宇宙論

    宇宙背景放射の観測を通じた宇宙物理学。初期宇宙の探索により、インフレーション宇宙論の検証と重力場の量子ゆらぎの検出を目指す。宇宙進化の観測により、宇宙の暗黒成分(暗黒エネルギー、暗黒物質、暗黒放射、ニュートリノ)の正体を探る。装置開発やデータ解析を駆使した実験物理学的アプローチで、宇宙の素顔に迫る。

    酒井広文 最先端レーザー技術を駆使した原子分子物理学実験

    最先端レーザー技術を駆使した原子分子物理学実験。(1)高強度レーザー電場を用いた気体分子の配列・配向制御とその応用、(2)非摂動論的高次非線形光学過程(多光子イオン化や高次高調波発生など)に代表される高強度レーザー物理や原子分子中の超高速現象、(3)軟X線領域の単一アト秒パルス発生とその偏光制御、及び原子分子中の電子の超高速ダイナミクスの制御への応用、(4)X線自由電子レーザー光を用いた分子構造とその超高速ダイナミクスの観測、(5)整形されたフェムト秒レーザーパルスによる原子分子中の量子過程制御。

    櫻井博儀 原子核物理学実験 重イオン原子核実験 重イオン核反応を用いて不安定核のビームを生成し,安定線から遠く離れたエキゾチック原子核の特異な性質・現象を調べる。研究テーマは,1)高速RIビームを用いた新手法の開発による不安定核の核構造、ダイナミクスの研究,2)RIビーム開発と核存在限界の探索,3)重イオン核反応の反応機構,等である。実験は主に理化学研究所加速器研究施設・不安定核ビーム生成装置を用いて行っている。

    佐野雅己 非線形物理学、ソフトマター、生物物理学

    非線形非平衡系および生物物理:非平衡系の統計物理、非線形動力学とカオス、散逸系におけるパターン形成と動力学、乱流の統計則・巨視的構造、非平衡ソフトマター、アクティブマター、定量的な生命物理。

    島野亮 光物性物理 テラヘルツ分光、レーザー分光を主な手法とする固体量子物性の研究。エキシトン、マグノン等の固体内素励起の観測による電子・スピン系の相転移ダイナミクスの解明や、光による多体電子系の量子相制御を目指している。具体的には、半導体の電子正孔系の絶縁体金属転移及び量子凝縮相の研究、低次元量子液体における磁気光学効果、超伝導体の光による相制御及び秩序変数の時空間ダイナミクスの観測、時間空間反転対称性が破れた系で量子効果により発現する特異な電気磁気光学の研究、非摂動論領域における光と物質との相互作用の解明など。

    須藤 靖 宇宙物理学・太陽系外惑星

    宇宙物理学と太陽系外惑星に関する理論的および観測的研究。具体的な研究テーマは、多波長観測データをもとにした銀河団モデルの構築、ダークマターハローの非球対称性の統計的モデル、重力レンズ天文学、広域銀河探査によるダークエネルギーの性質の解明、銀河系ダスト減光地図の精密検証、スタッキング解析による遠方銀河の性質の特定、軟X線分光観測を用いたダークバリオン探査、太陽系外惑星系の角運動量の起源と進化、多重惑星系の力学進化。

    髙木英典 物性物理 固体、特に遷移金属酸化物中の絡み合う電子(相関電子)が創成するエキゾチックな量子凝縮相を現実の物質の中に探索・実現する。同時に相形成の物理を解明する。現在、高温超伝導、量子スピン液体、非自明なスピン・電荷秩序、トポロジカル絶縁体、などに具体的興味の中心がある。舞台となる物質を自ら開拓すると同時に、電子輸送現象、熱物性、量子ビーム回折・散乱などのプローブを駆使して、ナノの世界での相関電子の静的・動的自己組織化構造を明らかにする。

    高瀬雄一 プラズマ物理・核融合

    プラズマは荷電粒子の集合体であり、非線形複雑系の典型例である。高温プラズマでは散逸が小さいので、熱平衡から遠い状態にある。また非線形性が顕著に現われ、それが発展して乱流状態が形成され、これらを介して複数の状態間で遷移を起こし、自ら構造を形成していく。高温プラズマは核融合発電に応用できるが、その実現はプラズマの振る舞いの物理的理解および制御にかかっている。本研究室では、TST-2球状トカマク装置のほか、国内外の大型核融合装置も使って高温プラズマ中の波動現象、不安定性、乱流等の研究を行っている。

    - 3-

  • 氏名 専攻分野 研究内容

    立川裕二 場の量子論及弦理論 素粒子の世界を記述する場の量子論は、強結合領域でいろいろな面白い性質を示しますが、超対称性というボゾンとフェルミオンを入れ替える対称性があると、この強結合領域が紙と鉛筆とすこしの計算機で理論的に調べることができ、それを主な研究対象にしています。超対称場の理論はまた超弦理論に埋め込むことによってより良く理解できるので、関連する超弦理論の研究も行っています。その過程で数学のいろいろな概念が自然に現れるのも興味深い点です。

    常行真司 物性理論 第一原理分子動力学法など基本原理に基づく計算機シミュレーションは、観測や実験からは得られない物性情報を得たり、あるいは実験に先んじた予言を行うことを可能にする。当研究室では主にそのような計算物理学的手法を開発しながら、物性物理学の基礎研究を行っている。電子相関の強い系や2成分量子系を取り扱うための新しい第一原理電子状態計算手法の開発、超高圧下など極限条件下の結晶構造探索と物性予測、固体表面の構造・電子状態・化学反応機構、水素を含む固体の量子効果、強誘電体の電子物性などが主要な研究テーマである。

    藤堂眞治 計算物理 計算物理学:量子モンテカルロ法など最先端の計算物理学の手法を用いて、量子スピン系やボーズハバード系など強相関多体系における新奇な状態の探索と相転移・臨界現象の解明を目指す。また、テンソルネットワークなどの量子多体系に対する新たなシミュレーション手法開発や京コンピュータなど最先端スパコンの能力を活かすための並列化手法の研究、次世代並列シミュレーションのためのオープンソースソフトウェアの開発も進めている。

    能瀬聡直 生物物理学 脳神経系の生物物理。神経回路の作動原理を神経配線や活動様式に基づき細胞レベルで理解することを目標とし、モデル動物を用いた研究を行う。光制御による神経活動操作、カルシウムイメージングやパッチクランプ法による神経活動測定、コネクトーム解析(電子顕微鏡画像再構築よる神経配線解析)などを総合的に適用することで、神経細胞間の入出力関係を実験的に明らかし、神経回路による情報処理の仕組みを探る。

    長谷川修司 表面物理学 半導体、金属、トポロジカル絶縁体などの結晶表面や、その上に形成される原子層、原子鎖やクラスターなどのナノメータスケール構造体について、原子配列、電子/スピン物性、機能特性などを多角的に研究する。具体的には電子バンド状態、電子・スピン輸送特性、光学応答、相転移などを、電子回折・顕微鏡、走査トンネル顕微鏡・分光法、光電子分光法、微視的4端子プローブ法、分子線エピタキシー法、集束イオンビーム加工法などの実験手法を駆使して研究する。1原子層の超伝導やキャリアの後方散乱の抑制などを最近発見した。

    濱口幸一 素粒子理論 素粒子の標準理論のエネルギースケールを超えたところにどのような物理があるのかに興味があり、自然界に存在するより基本的な統一理論を目指して研究しています。これまで私は、超対称性理論を中心とした標準模型を超える物理の模型構築、現象論的研究、初期宇宙論への応用といった研究を行なってきました。最新の素粒子実験や宇宙観測の結果にも注目して理論的研究に還元していきたいと考えています。

    林 将光 物性実験 電子スピンが誘起する物理に関する物性実験。原子層レベルで制御した薄膜ヘテロ構造において、スピン軌道相互作用が生み出す新たな物理現象を探索・解明する。将来的に量子情報技術に展開できる磁性、伝導、光応答などの物性に関する研究を行っている 。

    馬場 彩 宇宙物理学実験 宇宙は冷たく空っぽの静かな世界に見えるが、実は熱く激しい天体現象が普遍的に存在することが分かってきた。我々はこれら超新星残骸やブラックホールといった激動天体からのX線・ガンマ線を、地上や宇宙空間の望遠鏡で観測し、宇宙の力学的進化・化学的進化を探っている。2016年に打ち上げた宇宙X線衛星「ひとみ」は残念ながら運用停止したものの遺されたデータの解析を全力で行うとともに、「ひとみ」代替機、その先の宇宙高エネルギー衛星「FORCE」などの開発、超高エネルギーガンマ線望遠鏡CTAの開発などを行っている。

    樋口秀男 生物物理学 当研究室では生体モータータンパク質を分子・細胞・個体の3つの階層からアプローチし,各階層の機能メカニズムを解明すると同時に全体を俯瞰した生体運動の物理モデルを構築する.具体的な研究テーマは,1.精製モーター1分子の3次元的な運動をÅ精度で解析し,Åレベルの運動メカニズムの解明を行う.2.細胞内モーター分子の変位と力を3次元的に測定し,力学状態の時空間的変化を解析する.3.マウス内モーター分子の運動を解析し,個体内細胞の運動を明らかにする.4.細胞の運動機能に普遍的な物理モデルを構築する.

    福嶋健二 原子核理論 自然界の最も基本的な相互作用のひとつである『強い相互作用』の織り成す物理をさまざまな手法を用いて研究しています。強い相互作用するクォークとグルーオンが、パイ中間子や核子などハドロンを作り、多数のハドロンが集まって我々の身の回りの物質を構成しています。超高温・超高密度・強い外場(磁場・電場・重力場など)の中では、身近な物質からは想像もつかない面白い物性が『強い相互作用』の性質から導かれます。既知の理論から新奇現象を探る理論研究を目指しています。

    - 4-

  • 氏名 専攻分野 研究内容

    福山 寛 低温物理学 低温物理学: (i) 超低温におけるヘリウムの量子物性。特に単原子層ヘリウム膜を舞台とした量子スピン液体や超流動量子液晶など新奇な量子相の正体を、NMR、比熱、流れの測定から解明する。(ii)カーボンナノマテリアルの電子物性。特にグラフェンのスピン偏極エッジ状態やカーボンナノチューブのランダムネットワークにおける朝永・ラッティンジャー状態などを、極低温での走査トンネル分光や輸送現象の測定から解明する。

    藤森 淳 光電子分光、強相関電子物性

    光電子分光、放射光分光を用いた固体電子物性の研究。強相関電子系、磁性半導体およびそれらの界面、ナノ構造の特異な物性の発現機構解明。高温超伝導、巨大磁気抵抗、金属-絶縁体転移、非フェルミ液体的振る舞いの解明を目指す。

    古澤 力 生物物理学(理論/実験)

    生物物理学:適応・進化・発生・免疫といった多数の要素が関与するダイナミッ クな生物現象について、理論と実験の両面から解析する。計算機シミュレーショ ン、理論解析、そして構成的生物学実験を統合し、個々の分子の詳細に依存しな い普遍的な性質を切り出すことにより、生物システムの状態とその遷移を記述す るマクロレベルの状態論の構築を目指す。

    松尾 泰 素粒子理論 量子重力、超弦理論、場の量子論、可解な量子系、およびそれに関連する数理物理学が主要な研究トピックスである。より具体的な最近のテーマとしては、M理論に現れるブレーンの定式化、それに関連する新しい対称性や幾何学、また、ゲージ理論や低次元可解模型に現れる無限次元対称性などがあげられる。

    宮下精二 統計力学、物性基礎論、磁性

    強く相互作用する系が見せる協力現象の特徴を統計力学的な手法を用いて研究する。量子効果や相互作用の競合(フラストレーション)、ランダム性がなどのよる興味深い相転移・臨界現象の研究や、それぞれの系が示す動的な性質を、非平衡統計力学や量子ダイナッミクスの観点から調べていく。‘相互作用系のモデル化と制御’の観点から諸現象の積極的な把握を目指す。

    村尾美緒 量子情報 (理論) 計算アルゴリズムや情報処理を効率よく実行するための装置としてだけではなく、量子力学的に許されるすべての操作を自由に行うことができる装置として量子計算機をとらえる。そして、量子計算機を用いることで現れる量子力学的効果を解明することによって、情報と情報処理という操作論的な観点から量子力学への基盤的理解を深めるとともに、エンタングルメントなど量子力学特有の性質を情報処理、情報通信、精密測定、精密操作などへ応用するための理論的研究を行っている。

    諸井健夫 素粒子論・宇宙論 素粒子理論・素粒子論的宇宙論

    山本 智 宇宙物理学、星間化学、分子分光学

    国際共同大型ミリ波サブミリ波干渉計ALMAなどの最先端電波望遠鏡を用いて、恒星と惑星系が生まれる現場での物理過程と物質進化を研究している。また、将来の電波観測を支える検出器技術の開拓も進めている。

    湯本潤司 光物性、量子エレクトロニクス

    結晶、金属等の凝縮系に高強度レーザー光が照射されると、物質内の電子や原子は、励起状態に遷移するだけでなく、脱離現象も起こす。このような現象は、非線形、非平衡、開放系の物理として扱う必要があり、最も難しい課題のひとつである。この現象を、フェムト秒の時間分解能で、更に、フェムト秒からマイクロ秒の10桁以上の時間スケールで追及し、その知見をレーザー加工などへ発展させる。

    横山将志 素粒子物理学実験 ニュートリノ振動の発見により,ニュートリノの性質を詳細に調べることで宇宙から反物質が消えた謎を解く鍵が得られる可能性が拓けた。大強度陽子加速器J-PARCで作ったニュートリノビームや反ニュートリノビームを295km離れたスーパーカミオカンデで検出するT2K実験を進めている。また,今後の発展に向けてハイパーカミオカンデプロジェクトの推進や,新しいニュートリノ測定器の開発も行っている。

    横山順一 宇宙論・重力波 初期宇宙論と重力波物理学。 場の量子論、素粒子物理、一般相対論等の基礎理論を用いて初期宇宙の進化を再現する研究と、宇宙背景放射等の観測データから出発して初期宇宙の物理に還元する研究を並行して行っています。 また、KAGRAの稼働を控え、重力波データ解析の基礎研究、また重力波を用いた宇宙論の研究を行っています。

    吉田直紀 宇宙物理学 専門は数値宇宙論。大規模なコンピューターシミュレーションを用いて星や銀河、ブラックホールの形成とその共進化を明らかにすること を目指している。暗黒物質の素粒子的性質と宇宙の構造形成とは深く関わっている。様々な理論モデルに対してコンピューターシミュレーションにより定量的な予言を与え、豊富な観測データとの比較によって暗黒物質や暗黒エネルギーの正体に迫る。  新たな計算手法の開発や超高速計算に取り組むとともに、機械学習を用いた大規模観測データ解析や超新星検出などデータサイエンスもすすめている。

    以上 43名

    - 5-

  • 2018年度 学部時間割

  • 平成30年(2018)年度

    1限 2限 3限 4限 5限

    火 物理実験学

    水 物理学のための科学英語基礎

    1限 2限 3限 4限 5限

    月 電磁気学Ⅱ

    火 応用数学XC 量子力学Ⅱ

    水 現代実験物理学Ⅰ 計算機実験I

    木 統計力学Ⅰ

    1限 2限 3限 4限 5限

    月 光学 物理数学Ⅲ

    火 解析学XC 量子力学Ⅲ 物理学ゼミナール

    水 生物物理学 固体物理学Ⅰ

    木 電磁気学Ⅲ

    1限 2限 3限 4限 5限

    サブアトミック物理学

    計算科学概論

    火 応用数学XC 一般相対論

    水 プラズマ物理学 量子光学

    木 固体物理学Ⅱ

    金 宇宙物理学 生物物理学特論II

    1限 2限 3限 4限 5限

    場の量子論Ⅱ

    系外惑星

    連続系アルゴリズム

    重力波物理学

    水 電子回路論

    木 固体物理学III

    金 普遍性生物学

    化学物理学光学月

    場の量子論Ⅰ

    金 現代実験物理学Ⅱ 統計力学Ⅱ 計算機実験II

    2年 Aセメスター

    3年 Sセメスター

    3年 Aセメスター

    4年 Aセメスター

    4年 Sセメスター

    物理学演習Ⅱ

    量子力学Ⅰ(A2ターム)電磁気学Ⅰ

    解析力学(A1ターム)

    特別実験Ⅱ 理論演習Ⅱ

    物理学実験Ⅱ

    物理学演習Ⅳ(統計力学Ⅰ・電磁気学II A1ターム)

    物理学実験Ⅱ

    特別実験Ⅱ 理論演習Ⅱ

    特別実験Ⅰ 理論演習Ⅰ

    特別実験Ⅰ 理論演習Ⅰ

    特別実験Ⅰ 理論演習Ⅰ

    物理学のための科学英語特論素粒子物理学

    統計力学特論 現代物理学入門

    解析学XC 原子核物理学火

    物理学演習Ⅰ

    特別実験Ⅱ 理論演習Ⅱ

    物理数学Ⅰ(A1ターム)

    物理学実験Ⅰ

    物理学演習Ⅲ(量子力学II)

    物理学実験Ⅰ

    物理学実験Ⅱ

    物理学実験Ⅰ

    物理数学Ⅱ(A2ターム)

    物理学演習Ⅴ(量子力学III)

    流体力学物理学演習Ⅳ(統計力学Ⅰ・電磁気学II S2ターム)

    - 9-

  • 2017年度に行われた講義の概要

  • 1 2年生 Aセメスター

    1.1 電磁気学 I : 駒宮 幸男

    1. 特殊相対性理論

    1.1 ニュートン力学における時間と空間

    1.2 Michelson-Morleyの実験と光速不変の原理

    1.3 ローレンツ変換

    1.4 ミンコフスキー時空

    1.5 速度の合成

    1.6 時間のパラドックスと因果律

    1.7 ローレンツスカラー、ベクトル、テンソル

    2. 相対論的運動学

    2.1 質点の相対論的方程式

    2.2 重心系 (Center of Momentum System)

    2.3 粒子の衝突・崩壊の運動学

    3. 電場

    3.1 クーロンの法則とガウスの法則

    3.2 電位

    3.3 動いている電荷による電場

    3.4 動いている電荷どうしに働く力

    4. 磁場

    4.1 磁場の性質

    4.2 磁場の満たす方程式

    4.3 ベクトルポテンシャル

    4.4 電磁場のローレンツ変換

    5. 電磁誘導とマックスウエルの方程式

    5.1 電磁誘導の基礎

    5.2 相互誘導と自己誘導

    5.3 変位電流

    5.4 マックスウエルの方程式

    6. 準定常電磁場と交流理論

    6.1 準静的過程

    6.2 交流回路

    7. 電磁場中での荷電粒子の運動

    7.1 一様な静電場中での運動

    7.2 一様な静磁場中での運動

    7.3 一様な電磁場中での運動

    7.4 電磁場のエネルギー運動量保存則

    8. 相対論的な電磁気学の形式

    1.2 解析力学 : 常行 真司

    1. ニュートンの法則からラグランジュ形式へ1.1 ニュートンの法則1.2 ガリレイ変換1.3 オイラー-ラグランジュ方程式1.4 一般化座標と拘束条件1.5 ダランベールの原理1.6 ホロノーム系に対するラグランジュ方程式2. 最小作用の原理2.1 最小作用の原理2.2 オイラー-ラグランジュ方程式の導出2.3 自由粒子のラグランジアン2.4 相互作用する質点からなる孤立系のラグランジ

    アン2.5 ラグランジュ未定乗数法と拘束条件3. 対称性と保存則3.1 時間の一様性 → エネルギー保存則3.2 空間の一様性 → 運動量保存則3.3 空間の等方性 → 角運動量保存則3.4 循環座標3.5 ネーターの定理

    4. さまざまなラグランジアン4.1 回転座標系とコリオリ力4.2 ローレンツ力4.3 摩擦のある系5. ハミルトン形式と正準変換5.1 ルジャンドル変換5.2 ハミルトニアンと位相空間5.3 正準方程式5.4 正準変換と母関数5.5 正準変換の例5.6 正準変換の条件5.7 無限小変換5.8 ポアソン括弧式5.9 ポアソン括弧式と正準方程式5.10 ポアソン括弧式と無限小変換5.11 ハミルトン-ヤコビの方程式5.12 リウヴィルの定理6. 補遺6.1 相対論における解析力学6.2 分子動力学法

    - 13 -

  • 1.3 量子力学 I : 福嶋 健二

    1. 量子力学の導入1.1 歴史的背景

    1.2 古典・量子運動方程式

    2. 1次元 Schrödinger方程式2.1 変数分離

    2.2 1次元束縛問題

    2.3 1次元散乱問題

    2.4 半古典 (WKB)近似

    3. 調和振動子3.1 1次元調和振動子の解法 I (生成消滅演算子)

    3.2 1次元調和振動子の解法 II (Sturm-Liouville固有値問題)

    3.3 1次元調和振動子の解法 III (WKB近似)

    3.4 3次元調和振動子

    3.5 コヒーレント状態、スクイーズド状態

    4. 相対論的量子力学入門

    4.1 電子スピンの歴史的背景

    4.2 Pauli方程式

    4.3 Dirac方程式

    1.4 物理実験学 : 酒井 広文, 藤森 淳

    1. 序論 (物理実験の魅力)

    2. 単位

    2.1 SI基本単位の定義

    2.2 代表的な物理量の単位

    2.3 各種の常用単位系とその変換

    3. 各種の計測法

    3.1 レーザーの基礎と光の計測

    3.2 放射線の基礎とその計測

    4. 実験の基礎技術

    4.1 実験環境技術

    4.2 試料作製技術

    5. 誤差論

    5.1 実験誤差

    5.2 確率統計

    5.3 実験データの解析

    6. 実験レポートや論文の作成法と研究倫理

    1.5 物理数学 I : 松尾 泰

    Part I 複素関数論

    1. 無限和と収束性

    2. 複素関数

    3. 正則関数の基本的な性質

    4. 多価関数とリーマン面

    5. 複素積分:応用例

    6. デルタ関数

    7. 部分分数展開、無限積表示

    8. ガンマ関数・ベータ関数・ゼータ関数、解析接続

    9. 漸近展開と最急降下法

    10. 等角写像

    Part II 常微分方程式論

    1. 解の存在と一意性

    2. 積分により可解な微分方程式の例

    3. 線形微分方程式

    4. Laplace変換

    1.6 物理数学 II : 村尾 美緒

    1. フーリエ級数・フーリエ変換とその応用

    1.1 フーリエ級数

    1.2 フーリエ変換

    1.3 波動方程式

    1.4 ラプラス方程式

    1.5 ポアソン方程式

    2. 直交多項式と特殊関数

    2.1 直交多項式の一般論

    2.2 エルミート多項式

    2.3 ラゲール多項式

    2.4 ラゲール陪多項式

    2.5 ルジャンドル多項式

    2.6 ルジャンドル陪関数

    2.7 球面調和関数

    - 14 -

  • 2.8 ベッセル関数2.9 超幾何関数2.10 合流型超幾何関数

    3. 回転群と角運動量演算子

    3.1 回転群と角運動量の性質

    2 3年生 Sセメスター

    2.1 電磁気学 II : 岡本 徹

    1. 静電場

    1.1 基本法則

    1.2 電荷分布と静電場

    1.3 物質があるときの静電場

    1.4 境界値問題

    2. 静磁場と準性的な磁場

    2.1 基本法則

    2.2 磁気双極子モーメント

    2.3 物質の磁化

    2.4 境界値問題

    2.5 準静的な磁場と電磁誘導

    3. Maxwellの方程式と保存則

    3.1 物質中のMaxwell方程式

    3.2 電磁ポテンシャル

    3.3 電磁場のエネルギー

    3.4 電磁場の運動量

    4. 電磁波

    4.1 平面電磁波の基本的性質

    4.2 反射と屈折

    4.3 物質の交流電場に対する応答

    2.2 量子力学 II : 上田 正仁

    1. シュレディンガー方程式の性質

    2. 角運動量

    3. スピン

    4. 対称性と保存則

    5. 摂動論

    6. 準古典近似

    7. 観測過程

    8. EPRのパラドックス

    2.3 現代実験物理学 I : 福山 寛, 樋口 秀男

    1. レーザー物理学レーザー光学、画像処理、光学顕微鏡

    2. 非平衡系物理学ブラウン運動、生物の運動、生体分子の X線構造解析

    3. 磁性と磁気測定磁性の基礎、磁化・比熱測定、核磁気共鳴

    4. 超伝導と物理実験超伝導の基礎、超伝導電磁石、SQUID

    5. 極低温と物理実験極低温技術、断熱消磁冷却、粒子線検出器

    6. ナノスケールの物理と計測走査プローブ顕微/分光法、ナノテクノロジー

    2.4 流体力学 : 吉田 直紀

    1. 完全流体の力学

    2. 流れ関数と複素ポテンシャル, 渦の運動

    3. 粘性流体および圧縮性流体: ナビエ-ストークス方程式

    4. 流体の不安定性と乱流

    5. 衝撃波と爆発現象

    6. 宇宙流体力学と相対論的流体

    7. 双曲型偏微分方程式と数値流体力学

    8. 非線形波動

    9. ボルツマン方程式と運動論

    - 15 -

  • 2.5 統計力学 I : 桂 法称

    1. 統計力学とは何か?

    2. 確率論からの準備

    3. 量子論からの準備

    4. カノニカル分布と平衡統計力学

    4.1 平衡状態とは何か?

    4.2 等重率の原理とミクロカノニカル分布

    4.3 カノニカル分布

    4.4 熱力学との関係

    5. カノニカル分布の応用

    5.1 理想気体

    5.2 調和振動子

    5.3 常磁性と関連するモデル

    5.4 古典的な粒子の系

    6. 結晶の比熱

    6.1 アインシュタイン・モデル

    6.2 デバイ・モデル

    7. グランドカノニカル分布

    8. 量子理想気体の統計力学

    8.1 多粒子系の量子力学 (同種粒子の扱い)

    8.2 理想フェルミ気体

    8.3 理想ボース気体

    8.4 ボース・アインシュタイン凝縮

    2.6 計算機実験 I : 藤堂 眞治

    1. UNIXの基礎

    1.1 UNIXコマンド

    1.2 C言語プログラミング

    1.3 Gnuplotによるグラフ作成

    1.4 LaTeXによる文書作成

    2. 数値誤差・数値積分・ニュートン法

    3. 常微分方程式

    3.1 初期値問題と境界値問題

    3.2 Euler法・Runge-Kutta法

    3.3 陽解法と陰解法

    3.4 Numerov法

    3.5 シンプレクティック積分法

    4. 連立一次方程式

    4.1 物理に現れる連立一次方程式

    4.2 ガウスの消去法・LU分解

    4.3 逆行列の求め方

    4.4 LAPACKの利用

    4.5 反復解法

    5. 固有値問題

    5.1 行列の性質・べき乗・指数関数

    5.2 Jacobi法・Givens法・Householder法

    5.3 疎行列に対する反復法・べき乗法・Rayleigh-Ritzの方法・Lanczos法

    5.4 特異値分解・一般化逆行列

    5.5 行列の低ランク近似

    5.6 最小二乗法

    講義資料は、https://exa.phys.s.u-tokyo.ac.jp/ja/lectures で公開。

    3 3年生 Aセメスター

    3.1 光学 : 井手口 拓郎, 湯本 潤司

    1. 光学入門

    2. 幾何光学

    3. 波動光学

    4. 回折、フーリエ光学

    5. 偏光光学

    6. ビーム光学

    7. 電磁波光学

    8. 光の統計性

    - 16 -

  • 9. 光増幅器10. 導波光学(平面導波路)

    11. 導波光学(光ファイバー)

    3.2 物理数学 III : 立川 裕二

    1. 群の基本的な性質1.1 群の定義と例

    1.2 群の作用と軌道

    1.3 群の同型、部分群

    1.4 準同型と正規部分群

    2. 群に関する幾つかの話題2.1 SO(3)の有限部分群について

    2.2 結晶群の話

    2.3 SO(3)と SU(2)の関係

    2.4 古典群の話

    2.5 有限群の話

    3. 群の表現

    3.1 可換群の場合

    3.2 有限群の場合

    3.3 コンパクト連続群の場合

    3.4 リー代数とルート系、その分類

    4. 雑多な話題

    4.1 スピノル表現によるイジング模型の解法

    4.2 Monstrous Moonshine の話

    3.3 量子力学 III : 諸井 健夫

    1. 同種粒子1.1 同種粒子からなる多体系の波動関数1.2 第2量子化1.3 弦の量子化2. 電磁場中の荷電粒子2.1 ゲージ対称性とシュレディンガー方程式2.2 磁場中の荷電粒子

    2.3 ランダウ準位

    3. 散乱

    3.1 散乱断面積

    3.2 グリーン関数

    3.3 ボルン近似

    3.4 部分波展開と位相のずれ

    3.4 生物物理学:岡田 康志, 樋口 秀男

    1. 生命とは何か、生命誕生と遺伝情報

    2. タンパク質の構造と安定性

    3. タンパク質の 1分子機能

    4. 筋肉運動の分子論

    5. エネルギー生産系

    6. 細胞内の分子たち

    7. 人体の分子による制御

    8. 神経科学概論

    9. 細胞膜の電気的性質 1. 平衡電位と静止電位

    10. 細胞膜の電気的性質 2. 活動電位とH-H方程式

    11. 細胞膜の電気的性質 3. ケーブル理論と伝導速度

    12. シナプスと可塑性

    13. チャネル、ポンプ、レセプター

    14. 神経細胞の生物物理学

    3.5 固体物理学 I : 小形 正男

    1. 概要と復習量子力学、統計力学、原子構造など

    2. 原子から分子・固体へ3. 周期ポテンシャル中の電子とエネルギーバンド4. 電子物性、電子比熱、DOS

    5. 格子振動とフォノン、格子比熱

    6. 固体中電子のダイナミクス

    7. 金属と伝導電子電気伝導、熱電効果などの輸送係数

    - 17 -

  • 3.6 電磁気学 III : 安東 正樹

    1. 電磁波の基礎1.1 自由電磁場とその性質

    2. 電磁波の放射2.1 遅延ポテンシャルと先進ポテンシャル

    2.2 遅延ポテンシャルの多重極展開

    3. 荷電粒子の出す電磁波3.1 リエナール-ヴィーヒェルトのポテンシャル

    3.2 運動する荷電粒子の作る電磁波

    3.3 制動放射

    3.4 点電荷による電磁波の散乱

    3.5 チェレンコフ放射

    4. 電磁波の伝播

    4.1 導波管

    4.2 空洞共振器

    4.3 電磁波の回折

    5. 電磁場の角運動量

    6. 電磁波と重力波

    3.7 現代実験物理学 II : 浅井 祥仁, 横山 将志

    1. 素粒子と物質の相互作用2. 相対論的運動学3. 実験データと統計処理/統計現象の扱い方4. 粒子加速器5. 素粒子実験の検出器

    6. ニュートリノ実験

    7. ヒッグス粒子の見つけ方

    8. 超対称性粒子の探し方

    9. 暗黒物質の探し方

    3.8 統計力学 II: 宮下 精二

    1. 相互作用がある系での統計力学1.1 相転移現象1.2 平均場近似1.3 転送行列1.4 臨界現象の普遍性とスケーリング2. 非平衡統計力学

    2.1 線形応答理論

    2.2 オンサーガーの相反定理

    2.3 久保公式

    2.4 マスター方程式

    2.5 ランジェバン方程式

    3.9 計算機実験 II : 藤堂 眞治

    1. 対角化と量子力学

    1.1 二重井戸ポテンシャル

    1.2 積分による解法

    1.3 二分法

    1.4 対角化による解法

    1.5 解析計算による次元削減

    2. モンテカルロと統計力学

    2.1 多体系の統計力学

    2.2 モンテカルロ積分

    2.3 疑似乱数

    2.4 マルコフ連鎖モンテカルロ

    3. 行列の方法・分子動力学と統計力学

    3.1 数え上げ

    3.2 転送行列法

    3.3 C言語における行列・LAPACKの利用

    3.4 分子動力学法

    4. 最適化

    4.1 最適化問題

    4.2 ニュートン法

    4.3 囲い込み法

    4.4 最急降下法・勾配降下法・共役勾配法

    4.5 Nelder-Meadの滑降シンプレックス法

    4.6 シミュレーテッド・アニーリング

    講義資料は、https://exa.phys.s.u-tokyo.ac.jp/ja/lectures で公開。

    - 18 -

  • 4 4年生 Sセメスター

    4.1 場の量子論 I : 濱口 幸一

    0. Introduction

    0.1 Course objectives

    0.2 QuantumMechanics and Quantum Field The-ory

    0.3 Notation and convention

    0.4 Various fields

    0.5 Outline

    0.6 S-matrix, amplitude M ⇒ observables1. Scalar (spin 0) Field

    1.1 Lorentz transformatin

    1.2 Lagrangian and Canonical Quantization ofScalar Field

    1.3 Equation of motion

    1.4 Free Scalar Field

    1.5 Interacting Scalar Field

    1.5.1 What is ϕ(x)?

    1.5.2 In/out states and the LSZ Reduction For-mula

    1.5.3 Heisenberg field and Interactin picture field

    1.5.4 a and a† (again)

    1.5.5 ⟨0|T (ϕ(x)...)|0⟩ =?1.5.6 Wick’s theorem

    1.5.7 Summary, Feynman rules, examples

    2. Fermion (spin 1/2) Field

    2.1 Representations of the Lorentz Group

    2.1.1 Lorentz Transformation of coordinates(again)

    2.1.2 Infinitesimal Lorentz Transformation andgenerators of Lorentz group (in the 4-vectorbasis)

    2.1.A Other (disconnected) Lorentz transforma-tions

    2.1.3 Lorentz transformations of fields, and rep-resentations of Lorentz group

    2.1.4 Spinor Fields

    2.1.5 Lorentz transformation of spinor bilinears

    2.2 Free Dirac Field

    2.2.1 Lagrangian

    2.2.2 Dirac equation and its solution

    2.2.3 Quantization of Dirac field

    4.2 サブアトミック物理学 : 相原 博昭

    1. Elementary Particle Physics

    1.1 Species of elementary particles

    1.2 Interactions and gauge bosons

    1.3 Relativistic kinematics

    1.4 Particle and anti-particles

    1.5 Structures of subatomic particles

    1.6 Gauge theory and electroweak unified theory

    1.7 Higgs mechanism/ Higgs physics

    2. Nuclear Physics

    2.1 Hadrons and quarks

    2.2 Nuclear force

    2.3 Structure of nuclei

    2.4 Nuclear reactions

    3. Nuclear Energy

    3.1 Nuclear fission

    3.2 Nuclear fusion

    3.3 Nuclear reactors

    3.4 Breeder reactors

    4. Particle Accelerators

    5. Nuclear Medicine

    4.3 一般相対論 : 横山 順一

    1. 序論 等価原理と一般相対性原理

    1.1 等価原理

    1.2 一般相対性原理

    1.3 一般相対論の物理世界

    2. 数学的準備

    2.1 相対論に於ける物理量Ⅰ スカラーとベクトル

    2.2 双対空間

    2.3 テンソル

    - 19 -

  • 2.4 計量テンソル

    2.5 内積とテンソルの縮約

    2.6 微分

    2.7 計量テンソルの共変微分とクリストッフェル記号

    2.8 リーマンの曲率テンソル

    3. 曲がった時空の物理

    3.1 曲率テンソルその2

    3.2 重力場中の自由粒子の運動方程式

    3.3 ニュートン極限

    3.4 測地線と測地線偏差

    3.5 ビアンキの恒等式

    3.6 対応原理

    3.7 正準エネルギー運動量テンソル

    3.8 曲がった時空におけるエネルギー運動量テンソル

    3.9 エネルギー運動量テンソルの現象論的定義

    4. 一般相対論

    4.1 アインシュタイン方程式

    4.2 作用原理

    5. 球対称時空

    5.1 球対称真空解

    5.2 重力による時間の遅れと光の赤方偏移

    5.3 シュバルツバルト時空における粒子の運動

    5.4 水星の近日点移動

    5.5 光線の屈曲

    5.6 シャピーロ遅延

    6. ブラックホール

    6.1 シュバルツシルトブラックホール

    6.2 事象の地平線

    6.3 座標系について

    7. 重力波

    7.1 弱重力下の線形化したアインシュタイン方程式

    7.2 摂動変数のゲージ自由度

    7.3 重力波の伝播

    7.4 重力波の放出 

    8. 宇宙論

    8.1 宇宙原理と Robertson-Walker計量

    8.2 ルメートルフリードマン宇宙

    4.4 宇宙物理学 : 馬場 彩

    1. 万有引力の法則から見る宇宙と天体2. 電磁波の法則から見る宇宙と天体3. 星の基礎物理4. 星の進化と終末5. 縮退星(白色矮性と中性子星)とブラックホール

    6. 膨張宇宙の性質

    7. 初期の宇宙

    8. 宇宙の超高エネルギー現象

    9. 宇宙観測の今

    4.5 固体物理学 II : 林 将光

    0. 現代固体物理学

    1. バンド理論

    1.1 ブロッホの定理

    1.2 強束縛近似

    1.3 グラフェン

    1.4 ディラック方程式

    1.5 半導体

    1.6 クラインパラドックス

    1.7 状態密度

    2. 伝導

    2.1 電気伝導

    2.2 2次元電子系

    2.3 ホール効果

    2.4 ランダウ準位

    2.5 整数量子ホール効果

    3. 磁性

    3.1 交換相互作用

    3.2 フント則

    3.3 ハバードモデル

    3.4 ストーナーモデル

    3.5 スピン依存伝導

    3.6 スピン流とスピントルク

    3.7 ラシュバ模型

    - 20 -

  • 4.6 量子光学 : 酒井 広文

    1. 原子と放射の相互作用

    1.1 時間に依存する Schrödinger方程式

    1.2 相互作用ハミルトニアン

    1.3 遷移速度

    1.4 B係数の表式

    1.5 光学 Bloch方程式

    1.6 Rabi振動

    1.7 放射広がり

    1.8 飽和広がり

    1.9 放射減衰を伴う Rabi振動

    1.10 衝突広がり

    1.11 Doppler広がり

    1.12 合成吸収線の形状

    2. 電磁場の量子化

    2.1 古典電磁場のポテンシャル論

    2.2 Coulombゲージ

    2.3 自由古典場

    2.4 量子力学的調和振動子

    2.5 場の量子化

    2.6 場の交換の性質

    2.7 零点エネルギー

    2.8 モード位相演算子

    2.9 単一モード個数状態の物理的性質

    2.10 コヒーレント光子状態

    2.11 単一モードコヒーレント状態の物理的性質

    3. 量子化した場と原子との相互作用

    3.1 原子の多極モーメント

    3.2 多極相互作用ハミルトニアン

    3.3 電気双極子近似

    3.4 原子ハミルトニアンの第2量子化

    3.5 光子の吸収速度と放出速度

    4. レーザーの基礎

    4.1 光共振器のモード

    4.2 光共振器の安定性

    4.3 発振条件

    4.4 波動方程式に基づくレーザー理論

    4.5 定常状態におけるレーザー発振

    4.6 各種のレーザー

    4.6.1 3準位レーザーと 4準位レーザー

    4.6.2 固体レーザー

    4.6.3 気体レーザー

    4.6.4 色素レーザー

    4.6.5 半導体レーザー

    4.7 プラズマ物理学 : 江尻 晶

    1. 様々なプラズマ

    2. プラズマの特徴

    3. サイクロトロン運動

    4. 単一粒子の軌道

    5. ミラー磁場と断熱不変量

    6. 種々の磁場配位と軌道

    7. 衝突

    8. 電気抵抗

    9. 衝突と拡散

    10. 電磁流体力学(MHD)方程式

    11. MHDの応用

    12. 平衡

    13. 安定性

    14. プラズマ中の波動

     

    4.8 統計力学特論 : 常次 宏一

    1. 相転移と自発的対称性の破れ2. Ising模型の厳密解(1次元、2次元)3. Landau理論と揺らぎ4. Gaussian理論5. スケーリング6. 繰込み群のアイデア

    7. 波数空間繰込み群8. ε展開とWilson-Fisher固定点9. 連続対称性(O(N)模型、非線形シグマ模型など)10. Kosterlitz-Thouless 転移(2次元 XY スピ

    ン模型、渦励起、2次元Coulomb気体模型の繰込み群、超流動 stiffnessなど)

    - 21 -

  • 4.9 計算科学概論 : 大久保 毅 ほか6名

    1. 格子スピン模型の計算科学

    2. 高性能計算機のアーキテクチャ

    3. 大規模疎行列固有値問題と量子多体問題

    4.1 連続体の並列有限要素法解析入門

    4.2 構造解析アプリケーションによるCAE実践

    5. プラズマの数値シミュレーション手法の解説

    6. 高性能プログラミングと性能測定

    7. 大規模疎行列ソルバー入門

    4.10 物性物理学特論 : 長谷川 修司, 小森 文夫

    固体物理の知識を前提にして、固体表面の物理を、基礎概念から最新のトピックスを交えて解説する。

    1. 概論表面科学とは、歴史、表面科学とナノテクノロジー

    2. 表面構造表面超構造と相転移、回折法、顕微鏡法、動的過程

    3. 表面電子状態表面状態・トポロジカル表面状態、バンド分散・原子結合状態測定手法((逆)光電子分光法、トンネル分光法、電子エネルギー損失分光)、電

    子ダイナミクス

    4. 走査プローブ顕微鏡原理,表面構造観察、局所電子状態・表面バンドの観測,表面電子定在波、原子マニピュレーション

    5. 表面電子輸送表面空間電荷層の2次元電子系、表面電子バンドの2、1次元電子系、表面スピン輸送、表面超伝導

    6. 表面超薄膜磁性磁気モーメントと相転移、強磁性超薄膜、表面ナノ強磁性体、スピンダイナミクス

    4.11 生物物理学特論 I : 佐野 雅己, 岡田 真人

    Part I 佐野

    1. 生命現象の謎:秩序とゆらぎ、量子過程と古典過程、階層性

    2. ゆらぐ世界を記述する枠組み

    2.1 拡散と輸送、高分子、チャネル

    2.2 分子機械、走化性と確率微分方程式

    2.3 エネルギー、エントロピー、情報の統計力学

    3. 生命のマクロダイナミクスを記述する方程式

    3.1 遺伝子発現と力学系

    3.2 形態形成と反応拡散系、シート変形ダイナミクス

    3.3 細胞の集団運動とアクティブマター

    Part II 岡田

    1. 講義の目的

    1.1 ディープラーニング

    1.2 視覚の計算理論: David Marrの三つのレベル

    1.3 物質と情報の交差点としての脳科学

    2. 視覚野の階層構造と情報表現の自動獲得

    3. 情報統計力学:記憶のモデルとランダムピン系

    4. 高次視覚野と記憶へのデータ駆動型アプローチ

    5. 運動知覚と拡散方程式

    6. 脳型人工知能の今後の展開

    4.12 生物物理学特論 II : 能瀬 聡直, 酒井 邦嘉, 陶山 明

    1. 生体の機能

    2. 脳・心・言語の関係

    3. 普遍文法と言語獲得装置

    4. 再帰性が生み出す構造

    5. 自然言語処理(人工知能入門)

    6. 脳イメージングの基礎

    7. 脳情報処理の素子としてのニューロンの機能

    8. 神経活動の測定と操作

    9. 神経ネットワーク研究の方法論:細胞から個体へ

    10. DNAコンピュータの基本原理

    11. DNAコンピュータの物理的基礎

    12. 超並列計算によるNP完全問題の解法

    13. 生命科学への応用

    14. 材料科学への応用

    - 22 -

  • 5 4年生 Aセメスター

    5.1 化学物理学 : 山本 智

    1. イントロダクション2. 分子の形と対称性3. 分子の電子状態4. 分子分光学

    5. 分子間力

    6. 化学反応

    7. トピックス

    5.2 素粒子物理学 : 横山 将志, 大谷 航

    1. Introduction

    2. Basic Concepts

    3. Experimental Tools

    4. Decay and Cross Sections

    5. Dirac Equation

    6. Quantum Electrodyamics (QED)

    7. Weak Interactions

    8. Electroweak Theory

    9. Quark Model and QCD

    10. Quark Mixing and CP Violation

    11. Forefront of Particle Physics

    5.3 場の量子論 II : 伊部 昌宏

    1. Lorentz 群の表現論2. 正準量子化の復習3. Path Integral 量子化

    4. cross section, decay rate の計算

    5. QEDとその繰り込み

    5.4 原子核物理学 : Kathrin Wimmer

    1. Global properties of the nucleus

    2. Stability and decay

    3. Particle accelerators

    4. Detectors

    5. Nucleon-nucleon interaction

    6. Nuclear models

    6.1 Single-particle properties

    6.2 Collective excitations

    7. Nuclear astrophysics

    7.1 Hydrogen and helium burning

    7.2 Synthesis of heavy elements

    8. Super heavy elements

    9. Mass measurements

    10. Current status and open problems in nu-clear physics

    5.5 固体物理学 III : 北川 健太郎, 高木 英典

    1. 磁性1.1 孤立イオンの磁性、結晶場1.2 原子間相互作用1.3 スピン波1.4 ハバード模型1.5 遍歴磁性1.6 量子スピン磁性とフラストレーション

    2. 相関電子の超伝導2.1 電子相関2.2 モット絶縁体と磁性2.3 フェルミ液体論2.4 金属絶縁体転移2.5 層状銅酸化物の高温超伝導2.6 異方的超伝導

    - 23 -

  • 5.6 重力波物理学 : Kipp Cannon, Raffaele Flaminio

    1. Review of general relativity

    2. Gravitational-wave detectors

    3. Astrophysical sources of gravitationalwaves

    4. Signal identification and interpretation

    5.7 電子回路論 : 中澤 知洋

    電子回路はほとんど全ての実験物理で使われている。また、アナログ回路は線形応答の理論の体現そのものであり、デジタル論理回路は論理学の理論そのものでもある。いずれも、これまでの膨大な知見の蓄積により、優れた回路技術が多く存在する。本講義では、知識と実例をとりまぜつつ、電子回路の理解の仕方とその使い方の勘所をまとめる。

    1. 回路の線形応答と伝達関数

    2. 増幅回路

    3. 雑音と信号処理

    4. ディジタル回路とディジタル信号処理

    5.8 現代物理学入門 : 岡田 康志, 井手口 拓郎

    1. イントロダクション、レンズ光学系の基礎

    2. レンズ光学系の基礎 (続き)、顕微鏡光学系

    3. フーリエ結像理論、振幅コントラストと位相コントラスト

    4. 位相差顕微鏡の基本原理、ノマルスキー微分干渉顕微鏡

    5. ゼルニケの位相差顕微鏡、蛍光顕微鏡

    6. 共焦点顕微鏡、線形超解像顕微鏡 (構造化照明法)

    7. 非線形超解像顕微鏡 (誘導放出制御法、蛍光分子局在化法)

    8. レーザー概論

    9. 共振器

    10. 光子と原子

    11. レーザー増幅

    12. レーザー

    13. 光周波数コム

    5.9 普遍性生物学 : 金子 邦彦, 古澤 力

    1. 生命システムのマクロ状態理論の可能性

    1.1 基本的性質: 多様性、活動性、ロバストネス、可塑性

    1.2 階層整合性: 定常成長系の普遍法則

    2. 化学反応から複製細胞へ生命における「非平衡性」、少数性制御、区画化、成長のマクロ法則と相(付録:人工複製系構築実験について)

    3. 細胞の適応揺らぐ成長系の帰結、ノイズによる環境依存アトラクター選択

    4. 細胞ホメオスタシスと適応触媒量制御、多自由度適応系

    5. 細胞の記憶: 動的記憶とガラス

    6. 細胞分化と発生過程の不可逆性マクロ現象論、分化多能性の表現、相互作用による内部状態の分岐、分化能の喪失とリプログラミング

    7. 表現型の進化 (I)進化揺動応答関係、ノイズによる分散と遺伝分散の関係、安定性の進化

    8. 表現型の進化 (II)適応進化におけるルシャトリエ原理

    9. 発生―進化対応 

    10. 多様性の進化表現型変化の遺伝的固定, 共生、種分化、多様性の進化

    11. まとめと展望: 生物普遍性の現象論へ

    5.10 系外惑星 : 須藤 靖, 生駒 大洋

    1. 物理定数と世界の安定性 1.1 宇宙と世界はどちらが大きいか?

    - 24 -

  • 1.2 天体形成史

    1.3 宇宙の階層構造

    1.4 物理法則と初期条件

    1.5 ガス惑星の質量

    1.6 恒星の質量

    1.7 宇宙の階層と基本物理定数

    1.8 物理学における必然と偶然

    1.9 世界を知るための天文学

    2. 系外惑星検出史

    2.1 系外惑星発見数

    2.2 太陽系外惑星検出方法のまとめ

    2.3 太陽系外惑星発見の歴史

    2.4 プロキシマ・ケンタウリの周りのハビタブル惑星

    3. 系外惑星系の軌道進化と古在効果

    3.1 古在効果とは

    3.2 惑星形成の標準シナリオ: コア集積モデル

    3.3 重力2体問題

    3.4 ケプラー問題とハミルトン・ヤコビ方程式

    3.5 重力3体問題と永年摂動

    3.6 古在効果

    3.7 潮汐作用

    4. 惑星内部

    4.1 太陽系の惑星 (概観)

    4.2 内部構造の基礎

    4.3 ホットジュピター

    4.4 クールジュピター

    4.5 スーパーアースとミニネプチューン

    5. 惑星大気

    5.1 太陽系の惑星 (概観)

    5.2 大気構造の基礎

    5.3 大気透過観測

    5.4 大気放射観測

    6. 惑星系の多様性と起源

    6.1 巨大惑星

    6.2 小規模惑星

    6.3 恒星タイプ依存性

    - 25 -

  • 各研究室の研究活動内容

  • 相原・横山研究室

    相原 博昭 教授 横山 将志 准教授 小貫 良行 助教

    当研究室の専門は,素粒子物理学を実験的に研

    究する高エネルギー物理学である.高エネルギー加

    速器研究機構 (KEK)のスーパーBファクトリーを

    使った実験,および,大強度陽子加速器 (J-PARC)

    とスーパーカミオカンデを使ったニュ-トリノ振

    動実験を推進している.さらに,すばる望遠鏡を

    使ったダークエネルギーの研究や,次世代の大型

    水チェレンコフ検出器であるハイパーカミオカン

    デ計画を推進している.これら世界最先端の実験

    設備を使って,自分たちの手で素粒子や宇宙の謎

    を実験的に解き明かすことを目指している.

    1 スーパーBファクトリーでの物理

    素粒子物理学は,物質の究極の構成要素である素

    粒子の探究とその反応メカニズムの解明を目指し

    ている.当研究室は,素粒子反応が持つ対称性に

    着目して,究極の物理法則の姿を明らかにしよう

    としている.すべての粒子には,電荷が逆の反粒

    子が存在する.たとえば,電子には陽電子,陽子に

    は反陽子が存在する.これら粒子と反粒子は,電

    荷が逆であること以外,量子力学的に全く同じ性

    質を持っている.これを CP対称性と呼ぶが,素

    粒子に働く「弱い力」と呼ばれる力では,その対

    称性がわずかに破れていることが知られている.

    当研究室は,CP対称性の破れの起源を説明する

    理論として提唱された小林益川理論を,最先端加

    速器 Bファクトリーを使って検証した.小林益川

    理論は 2008年ノーベル物理学賞に輝いたが,当研

    究室では,さらにその先を見据え,次世代加速器

    スーパー Bファクトリーを使って,超対称性理論

    など現在の素粒子理論の先にある,より根源的な

    素粒子物理の解明を目指した実験を遂行しようと

    している.Belle II(ベルツー)と呼ばれるこの実

    験に向けて,現在加速器と測定装置の大幅な改良

    図 1. Belle II(ベルツー)測定装置.

    図 2. 当研究室で製作した,Belle II 測定装置の

    心臓部にあたる半導体粒子検出器.

    作業を行っている(図 1,2).

    また,Bファクトリーは B中間子の他に τ レプ

    トンも大量に生産する τ ファクトリーでもある.荷

    電レプトンの稀崩壊は,新物理を探索するための

    有力な手段の一つであると考えられている.当研

    究室では,B中間子と τ レプトンの研究によって

    新物理を探求している.

    2 ニュートリノビームを使った物理

    J-PARC加速器では,電荷を持たない,クォーク

    とは別種の素粒子である「ニュートリノ」の実験

    を行っている.ニュートリノは,既知の素粒子のう

    ちで性質が最も調べられていないものの一つであ

    り,現在の素粒子理論を越えた物理の手がかりを

    秘めていると考えられている.J-PARCで作った

    ニュートリノのビームを,約 300km離れた岐阜県

    の神岡にあるニュートリノ検出器(スーパーカミ

    図 3. スーパーカミオカンデ検出器でとらえた,

    295km離れた加速器からのニュートリノが反応し

    た事象.チェレンコフ光がリング状に見えている.

    - 29 -

  • 高さ60m

    直径74m

    図 4. ハイパーカミオカンデ検出器の概念図.高さ

    60m,直径 74mのタンクに超純水を満たし,チェ

    レンコフ光を検出することで多様な現象を捉える.

    オカンデ)に打ち込み,ニュートリノが飛んで行く

    間に別の種類のニュートリノに変わる様子(ニュー

    トリノ振動)を観測する. T2K実験と呼ばれるこ

    の実験で,我々はこれまで確認されていなかった

    種類のニュートリノ振動を発見した(図 3).

    また,クォークと同じようにニュートリノでも

    CP対称性が破れていることが予想されている.も

    しこの予想が正しければ,ニュートリノは,ビッグ

    バンから始まった宇宙における物質創成の歴史,す

    なわち,宇宙の進化において重要な役割を果たした

    可能性がある.ニュートリノ振動実験は,ニュート

    リノと宇宙進化の関わりを解明するための実験で

    もある.現在,T2K実験ではニュートリノビーム

    と反ニュートリノビームでの測定を用いて,ニュー

    トリノの CP対称性の破れの探索を開始している.

    しかし,CP対称性の破れを確実に測定するため

    には,さらに高統計・高精度の実験を行う必要が

    ある.当研究室では,次世代実験のための装置と

    して,現行のスーパーカミオカンデよりもさらに

    一桁大きく高性能なハイパーカミオカンデ検出器

    (図 4)を実現させるべく研究を行っている.ハイ

    パーカミオカンデ検出器は,素粒子の大統一理論

    で予言されている陽子崩壊の探索や,超新星から

    のニュートリノ検出なども世界最高感度で行うこ

    とのできる,宇宙と素粒子の分野にわたる幅広い

    研究を行うための実験装置である.

    3 すばる望遠鏡を使ったダークエネルギーの研究

    近年の宇宙論観測は,宇宙の約 23%と 73%は,そ

    れぞれダークマターとダークエネルギーによって

    占められていて,物質はわずか 4%を占めるのみで

    あり,かつ,宇宙は現在,加速膨張しているとい

    う驚くべき発見をもたらした.通常の物質や輻射

    (光)だけが存在している宇宙では,宇宙の膨張は

    減速する一方である.膨張を加速させるためには,

    図5. 完成した928メガピクセルCCDカメラ (左).

    現在はすばる望遠鏡に取付けられている (右).

    図 6. 試験観測で得られたアンドロメダ銀河M31

    の画像.拡大すると,230万光年かなたのM31の

    星々が一個々々 分離して見分けられる.

    重力とは異なり,宇宙全体に対して斥力として働

    く存在が必要であり,これがダークエネルギーで

    ある.ダークエネルギーは,アインシュタインの一

    般相対論に取って代わる新たな物理法則の存在を

    意味しているかもしれない.ダークエネルギーの

    研究は,時空の構造とその究極の構成要素を探求

    する素粒子物理学のメインテーマとなりつつある.

    この不思議なエネルギー,ダークエネルギーの

    研究は,現在のところ加速器実験では不可能で,天

    文観測によって行う必要がある.当研究室では,重

    力レンズと呼ばれる天体現象を,世界最大級の望

    遠鏡である すばる望遠鏡 を使って測定すること

    で,ダークエネルギーの正体に迫る.すばる望遠

    鏡に搭載した 928メガピクセル CCDカメラ(図

    5)は,平成 24年 8月にファーストライトに成功

    した(図 6).素粒子物理と宇宙論と呼ばれる宇宙

    の進化を研究する分野との関わりはますます深く

    なってきた.今後,この学際的分野をおおいに発

    展させていきたい.

    - 30 -

  • 浅井研究室浅井祥仁 教授 石田明 助教 

    1 研究の背景この研究室は、素粒子研究をエネルギーフロンティア加速器と小型テーブルトップ実験の両側から研究を行うユニークな研究室です。素粒子を使って、時空や真空をさぐることをテーマに幅広く研究を行っています。2 最近の研究テーマ

    (A)ヒッグス粒子の発見と超対称性粒子研究:世界最高エネルギー LHCでの素粒子研究;

    2012年 7月についにヒッグス粒子が発見された。この研究に東京大学素粒子物理国際研究センターと当研究室はこの重要な成果をあげた。ヒッグス粒子の発見は、真空はカラではなく、特殊な状態(ヒッグス場に満ちている)にあることの初めての実験的な検証である。ヒッグス場は、素粒子の質量の起源のみならず、その変化(真空の相転移)が宇宙の進化をもたらしたと考えられており、素粒子の研究を通して宇宙誕生の謎にせまる。これから真空の研究が重要になってくる。

    LHC(Large Hadron Collider)実験は、ジュネーブ郊外にある円周 27kmの大型加速器(写真)であり 2015年より重心系エネルギー 14TeVの世界最高エネルギーで素粒子実験が再開される。ヒッグス粒子の発見は、新しい原理が背後にあることを示唆している。その最有力候補が超対称性である。超対称性粒子は宇宙の暗黒物質の有力候補でありその発見は宇宙の進化を理解する上でも、また超対称性は時空の構造に密接に結びついた本質的な対称性であり、重力を場の理論に取り込む上でも不可欠である。この様に素粒子物理ばかりでなく、宇宙など多くの関連分野に大きな影響を与えることが期待されている。この超対称性粒子の探索を LHCで行っている。  (B) 小規模実験(テーブルトップ)での標準

    理論を超えた素粒子現象の探索; 大きな実験で最先端の素粒子物理を追い求めると同時に、自分の手や頭で「実験する技術や能力」を高める為の小規模な実験を LHC実験と並んで取り組んでいる。アクシオンなどの軽い未知の素粒子探索、レプトン世界の CP破れの探索やポジトロニウム(電子と陽電子で構成される世界で一番軽い原子)を

    LHC加速器の写真

    用いた高精度の量子電磁気学の検証、新しい光を使った素粒子実験など幅広く行っている。下の写真は自由電子レーザ(サクラ)である。世界最高強度の光を用いた、光同士の散乱実験を行い、ヒッグスで垣間見た真空の構造を探っている。本研究室は、「光を用いた新しい素粒子実験」を目指し、SACLAなどの高輝度 X線を用いた実験や、強力なミリ波(THz波)の光源開発や検出器開発を行ている。

    Spring8と SACLA: 世界最強強度X線実験装置

    3 今後の展開LHCでヒッグスが発見され、2015年には超対称

    性の発見が期待されている。これらは、ただの新粒子の発見でなく、新しい素粒子研究の時代の幕開けである。真空や時空と言ったいままで入れ物だと思われていたものへ研究対象が広がっていくと思われる。これらのトピックスを、別の角度から研究するテーブルトップ実験も展開していく。

    - 31 -

  • KAGRA

    1.

    (

    )

    2.

    1

    1916

    LIGO , 2015 9

    KAGRA

    2009 SDS-1

    SWIM

    LIGO

    KAGRA( )

    2020

    3.

    10−23

    (

    eLISA DECIGO )

    2009

    SWIM

    HP http://granite.phys.s.u-tokyo.ac.jp/

    - 32 -

  • Kathrin Wimmer 研究室

    Kathrin Wimmer 講師

    Atomic nuclei are the carrier of almost all visi-ble mass in the universe. Nuclei also provide thefuel powering stars and nuclear reactions produceall naturally occurring chemical elements. De-spite this fundamental role of nuclei in the uni-verse, their structure and dynamics cannot yet besatisfactorily described on the basis of the funda-mental strong interaction.In our research group we address a number of

    open questions in this interesting field of science:

    • What is the origin of the elements on thecosmos?

    • What is the nature of the nuclear force?

    • How do simple patterns arise in complex nu-clei?

    1 The origin of the elementsThe Big Bang only created hydrogen and heliumnuclei, all other elements were created in stars orstellar explosions like supernovae or X-ray bursts.However the reactions creating the heavy elementsinvolve nuclei whose properties are completely un-known so far and only theoretical models exist.New experiments are therefore needed to get abetter understanding of the origin of elements.

    28 Ni

    50 Sn

    82 Pb

    2 8

    2028

    50

    82

    126

    162

    184

    number of neutrons

    num

    ber o

    f pro

    tons

    stable ~300radioactive ~ 3000predicted ~6000

    r-processrp-process

    2 New magic numbersOne of the major successes in the description ofthe properties of atomic nuclei was the introduc-tion of the nuclear shell model. For certain num-bers of protons or neutrons, the so-called magicnumbers, discontinuities occur, for example in thenucleon separation energies. In analogy to thesuccessful atomic shell model, these magic num-bers were interpreted as closed shell configura-tions, similar to the noble gases. In exotic nu-clei however, far away from the stable isotopes,several experimental as well as theoretical inves-tigations found evidence that the shell structure

    of atomic nuclei can change. In order to under-stand the underlying causes for the migration ofnuclear shells, sensitive experimental methods areof paramount importance to investigate rare iso-topes far from stability.

    10: neon

    54: xenon

    36: krypton

    18: argon

    50

    126

    82

    40

    70

    5856

    Atoms:Stablenuclei:

    Exoticnuclei:

    N>>Z

    ???

    5p

    2s2p

    3s3p

    4s3d4p

    4d5s

    1g9/2

    2d3/21h11/2

    2d5/21g7/23s1/2

    2f7/21h9/23p3/21i13/22f5/23p1/2

    1g9/22d5/2

    3s1/2

    2d3/21g7/2

    1h11/22f7/21h9/23p3/22f5/23p1/2

    3 Shape coexistenceAn atomic nucleus can exhibit eigenstates withdifferent shapes, a unique behavior of the many-body quantum system. This phenomenon, calledshape coexistence, is manifested in several regionsof the nuclear chart and many experiments to in-vestigate it have been performed. Neverthelessthe underlying microscopic origin of this inter-esting feature is not known to date. We focusour research in particular on the single-particleproperties of nuclei, trying to find out under whatconditions the shape of the nucleus is round likea soccer ball or deformed like an American foot-ball.

    Our research focuses the structure of radioac-tive nuclei. We use direct reactions to populatestates in the exotic nuclei and state-of-the-art ex-perimental equipment. Experiments using themost exotic nuclei available allow us to get somefirst information on the properties of hithero un-known nuclei. Detailed studies of nuclei closer tostability are crucial to constrain theoretical mod-els. Nuclear physics is very international field,we collaborate with groups at several leading re-search institutions, in Japan and abroad. Our ex-periments are performed at world leading radioac-tive beam facilities such as the RIBF (JAPAN),NSCL (USA) and TRIUMF (Canada).For more information about the group and cur-

    rent research projects visit:http://nucl.phys.s.u-tokyo.ac.jp/wimmer/

    - 33 -

  • 1

    1

    2

    3

    (a)

    S

    ĤS = P̂SĤP̂S (b)

    (c) F

    (d)

    Phys. Rev. Lett. 118, 200401 (2017)

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  • 岡田研究室

    岡田 康志教授 榎 佐和子助教 池崎 圭吾助教

    1 我々の目標:生命とは何か

    生命の基本単位は細胞だと考えられています。し

    かし、細胞の構成成分であるタンパク質や脂肪、核

    酸を混ぜ合わせただけでは、生命は生じません。生

    きているという状態を物理の言葉で理解すること

    が、生物物理学の究極の目標です。

    私たちは、タンパク質などの分子機械がどのよ

    うに機能することで生命現象が営まれているかを

    計測し、理解することで、その秘密に迫りたいと

    考えています。

    2 これまでの研究:百聞は一見に如かず

    そのために、私たちは、生命現象が営まれてい

    る現場を自分の目で見て考えるという姿勢を大事

    にしています。

    そこで、私たちはこれまで、タンパク質分子の

    1個1個が機能する様子を直接観察し、さらには

    直接操作することを目的として、X線結晶回折、ク

    ライオ電子顕微鏡、蛍光一分子計測など様々な方

    法を利用し、時に自ら方法論の開発から行うこと

    で計測を行ってきました。そして、その結果を利

    用して、理論モデルを構築・検証することで、タ

    ンパク質分子モーターがブラウン運動を巧実に整

    流することで方向性のある動きを実現する機構を

    解明してきました。

    また、同様のアプローチをマウスやウサギなど

    の胎児 (初期胚)に適用して、生きた初期胚を直接

    観察する方法論を開発しました。その結果、体表

    面に生えている線毛運動が引き起こす流れが身体

    構造の左右対称性を破る最初のイベントであるこ

    とが示されました。ヒトやその他の脊椎動物の内

    臓は、心臓が左側にあり、肝臓が右側にあるなど

    左右非対称な配置であることが知られていますが、

    左右対称な卵細胞からどのようにして左右非対称

    性が生み出されるかは全く不明でした。私たちの

    発見により、発生学の長年の基本問題の一つが解

    決し、教科書を書き換える成果となりました。更

    に、定量計測と理論計算によって、その流体力学

    的な機構の解明にも成功しました。

    最近では、細胞の中でタンパク質が集合して形

    成する 100nm程度の微細構造が生命機能を実現す

    る現場を直接観察することを目標として、世界最

    高速の超解像顕微鏡の開発に成功しました。また、

    細胞の中でタンパク質分子 1個 1個が時に拡散し、

    時に細胞内の構造物と結合して機能する様子をリ

    アルタイムに直接見ることが出来る顕微鏡を構築

    しています。このような新しい顕微鏡を用いて細

    胞を観察すると、細胞の中は従来の教科書に描か

    れている細胞像とは全く異なる未知の世界である

    ことを実感させられます。

    図の左上側は従来の顕微鏡像で、右下側が我々の

    開発した超解像顕微鏡による像。ミトコンドリア

    の外側表面の膜の複雑な動態が世界で初めて観察

    された。

    3 今後の展開:未知のフロンティア

    ボーアやシュレーディンガーは、量子物理学の

    次のフロンティアとして「生命とは何か」と問い

    ました。その際、生きた対象を分析する困難さた

    めに生命の理解に到達するのに必要な何か基本的

    な特性の理解が欠けているのだと論じました。そ

    れから 80年近くが経過し、計測技術は大幅に進歩

    しました。生きた細胞の中で分子が働く様子を定

    量的に計測することは、もはや夢物語ではありま

    せん。

    前人未踏のフロンティアが目の前に拡がってい

    ます。私たちと共に、自分の手で実験し、自分の

    目で見て、自分の頭で考えることで、未知の世界

    を探求してみませんか?

    研究室ホームページ:

    http://www.okada-lab.phys.s.u-tokyo.ac.jp/

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  • 岡本研究室

    岡本 徹 准教授 枡富 龍一 助教

    1. 二次元の世界の電子

    「二次元の世界」といってもアニメやゲームの

    話ではありません。分子、原子、電子、原子核な

    どのミクロな粒子の性質がわかっていても、その

    集合状態の諸性質を解明することは容易ではあり

    ません。「物性物理学」が対象とするのは、こうし

    たマクロな物質中に見られる諸現象であり、磁性

    や超伝導などがなじみ深いかと思います。私たち

    の研究室では、半導体の界面や表面を使って電子

    を「二次元の世界」に閉じ込めて、その集団的振

    る舞いを研究しています。

    2. 半導体表面の二次元電子系と量子ホール効果

    これまで、二つのノーベル物理学賞が二次元電

    子における発見に対して与えられていますが、い

    ずれも半導体デバイスの中に閉じ込められた界面

    二次元電子系の電気抵抗に関するものでした。こ

    れに対して最近私たちの研究室では、極低温・超

    高真空下でへき開して得られた表面に微量の金属

    原子を乗せることによって作られる二次元電子系

    の研究を行っています。

    図1 (a)に表面二次元系で観測された量子ホール

    効果の実験例を示します。図1 (b)のように、InSb

    へき開表面に微量の鉄原子を蒸着することによっ

    て二次元電子を誘起しました。磁場中におかれた

    物質に電流を流すと、電流方向だけではなく、電

    流および磁場に直交する方向に電圧(ホール電圧)

    が生じます。この現象はホール効果として知られ

    ていますが、ホール電圧と電流の比、すなわちホー

    ル抵抗が完全に量子化された値(物理定数 h/e2を

    整数または分数で割った値)を示すのが量子ホー

    ル効果です。これは、電子の運動エネルギーが強

    磁場中ではランダウ準位と呼ばれるとびとびの値

    に量子化されることから生じる、「二次元の世界」

    だけで見られる現象です。

    界面の二次元系とは対照的に、表面ではマイク

    ロプローブで直接 “触れる”楽しみがあります。走

    査トンネル顕微鏡を用いると、構造観察だけでは

    なく、トンネル電流の電圧依存性から電子状態密

    度スペクトルを調べることができます。図1 (c)の

    B = 10 Tのグラフは図1 (a)(b)と同じ試料でラ

    ンダウ準位を観測した結果で�