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テスタ・オシロスコープ-1 テスタ・オシロスコープの使い方 [1] テスタの使用法 1.テスタとは Circuit Tester(回路試験器)の略称で,直流電 圧計,直流電流計,交流電圧計,抵抗計を1 つのケース内に収めた便利な測定器である. 電子機器の回路の検査など,それほど高精度 を要求しない場合に威力を発揮する.表1に 一般的なテスタの測定範囲を示す. 2.テスタの使用法 1 に一般的なテスタの外観を示す.テスタ には測定値を表示するメータ指示部,測定レン ジを切り替えるレンジ切替つまみ,測定対象を 接続する+・-端子がある.テスタを使用する 際,抵抗測定レンジで電圧を加えると瞬時に破 損することがある.何を測定するのか良く考え, レンジを間違えないよう注意することが必要 である.一般のテスタによる測定値の許容誤差 範囲は最大目盛り値の±3%~±4%程度である. (a)測定前 テスタを水平にして,指針が正しく 0 を指していることを確認する.ずれているときは ゼロ調節つまみをマイナスドライバー等で静かに回して修正する.測定端子の+側に赤の テストリードを,-側に黒のテストリードを接続する.次に測定対象に合わせたレンジを レンジ切り替えつまみで選択する.測定値が全く未知の場合は最大レンジにセットし,徐々 にレンジを切り替えながら測定する. (b)直流電圧測定 黒色テストリードを回路の-側に,赤色テストリードを回路の+側に,測定部に対して 並列に接続する.設定したレンジに合った目盛りから,電圧値を読み取る.指示値が小さ いときは徐々に測定レンジを下げ,測定する. 1 一般的なテスタの測定範囲 直流電圧 0.1 V 1000 V 直流電流 50 µA 0.5 A 交流電圧 0.1 V 1000 V 抵抗 1 1 M※一般のテスタは交流電流は測定できない. メータ指示部 ゼロ調整つまみ 0調整つまみ +端子 -端子 レンジ切替つまみ 図1 一般的なテスタの外観

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テスタ・オシロスコープ-1

テスタ・オシロスコープの使い方

[1] テスタの使用法

1.テスタとは

Circuit Tester(回路試験器)の略称で,直流電

圧計,直流電流計,交流電圧計,抵抗計を1

つのケース内に収めた便利な測定器である.

電子機器の回路の検査など,それほど高精度

を要求しない場合に威力を発揮する.表1に

一般的なテスタの測定範囲を示す.

2.テスタの使用法

図 1 に一般的なテスタの外観を示す.テスタ

には測定値を表示するメータ指示部,測定レン

ジを切り替えるレンジ切替つまみ,測定対象を

接続する+・-端子がある.テスタを使用する

際,抵抗測定レンジで電圧を加えると瞬時に破

損することがある.何を測定するのか良く考え,

レンジを間違えないよう注意することが必要

である.一般のテスタによる測定値の許容誤差

範囲は最大目盛り値の±3%~±4%程度である.

(a)測定前

テスタを水平にして,指針が正しく 0 を指していることを確認する.ずれているときは

ゼロ調節つまみをマイナスドライバー等で静かに回して修正する.測定端子の+側に赤の

テストリードを,-側に黒のテストリードを接続する.次に測定対象に合わせたレンジを

レンジ切り替えつまみで選択する.測定値が全く未知の場合は最大レンジにセットし,徐々

にレンジを切り替えながら測定する.

(b)直流電圧測定

黒色テストリードを回路の-側に,赤色テストリードを回路の+側に,測定部に対して

並列に接続する.設定したレンジに合った目盛りから,電圧値を読み取る.指示値が小さ

いときは徐々に測定レンジを下げ,測定する.

表 1 一般的なテスタの測定範囲

直流電圧 0.1 V ~ 1000 V

直流電流 50 µA ~ 0.5 A

交流電圧 0.1 V ~ 1000 V

抵抗 1 Ω ~ 1 MΩ

※一般のテスタは交流電流は測定できない.

メータ指示部

ゼロ調整つまみ

0Ω調整つまみ

+端子

-端子

レンジ切替つまみ

図1 一般的なテスタの外観

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テスタ・オシロスコープ-2

(c)交流電圧測定

測定対象が交流であるので+-の極性は考えなくて良い.測定部には並列に接続し,値

を読み取る.

(d)直流電流測定

電流測定は一般的なテスタでは直流に限られている.一度,被測定回路の電源を切って

から,黒色テストリードを-側に,赤色テストリードを+側に,測定回路に直列に接続す

る.回路の電源を入れて電流を測定する.テスタを回路から切り離すときも,回路の電源

を切ること.

(e)抵抗測定

レンジ切り替えつまみをΩレンジにセットした後,赤色と黒色のテストリードをショー

ト(短絡)させ,指針がΩ目盛りの 0 を指すことを確認する.0 を指さない場合は 0Ω調整つ

まみを回して,0 を指すように調整する(この調整はレンジを変える毎に行う必要がある).

0Ω調整つまみを回しても指針が 0 を指さないときは内部電池を交換する.

回路中の抵抗を測定するときは回路の電源を切ってから行う.このとき大型のコンデン

サを含む回路ではコンデンサに充電された電圧の影響に注意する必要がある.抵抗が並列

に接続されている場合は片方の抵抗を回路から切り離すなどの工夫が必要となる.

Ωレンジを使うと,抵抗値の測定だけでなく,回路の導通・断線,ダイオードの極性,

トランジスタの断線などのチェックが行える.このとき,テスタ内部電池の+側が黒色テ

ストリードにつながっている事に注意しなければならない.

(f)測定後

測定後はレンジ切り替えつまみを OFF の位置にするか,もし OFF のレンジがない場合

は最も高圧の電圧レンジにすること.

3.テスタの構造と測定原理

可動コイル式の直流電流計がメータである.図 2 のように,固定した永久磁石による磁

場内に可動コイルが置かれている.コイルに直流電流が流れるとコイルが磁場から力(トル

ク)を受けて回転し,コイルに取り付けられたスパイラ

ル状バネとトルクが釣り合った所でコイルが停止する.

このときの指示針の位置から測定値を読み取る.この一

台の電流計に,分流器,倍率器,ダイオードなどを組み

合わせて,広い範囲の電流・電圧および抵抗を測ること

が出来るように工夫されている.

図2 テスタの構造

N S

可動コイル

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テスタ・オシロスコープ-3

(a)直流電流計

テスタのメータ(電流計)が最大 1mA まで流すことができて,メータ自身の内部抵抗 r が

1kΩであるとする.メータはフルスケールで 1mA までしか測定できないが,図 3 のように

電流計と並列に抵抗 Rs の分流器を付加することで,テスタ全体で測定できる電流 Ixを大き

くすることができる(Rs=0.5kΩとすると 3 倍にできる).抵抗値の異なる分流器を切り替える

ことで,測定可能な電流レンジを変えることが出来る.

テスタ

r = 1kΩA

I直流電流計(メータ)

Ix

+端子 -端子

II x =

最大電流 1 mA

テスタ

r = 1kΩA

I直流電流計(メータ)

Ix

+端子 -端子

s

sx R

rRII

+=

最大電流 3 mA

Rs = 0.5kΩ

分流器

図3 直流電流の測定と分流器

(b)直流電圧計

電圧計は,内部抵抗 r の電流計と直列に接続された抵抗 R(倍率器)から成り立つ.図 4 に

おいて,抵抗値(r+R)が一定であるから,電流計で I を測定すると Exを知ることが出来る.

テスタのメータ指示部には直接 Exを読み取るための目盛りが振られており,これを読み取

ることで電圧を測定できる.倍率器の抵抗 R を切り替えることで,測定可能な電圧レンジ

を変えることが出来る.

テスタ

r = 1kΩA

I直流電流計(メータ)

+端子 -端子

( )RrIEx +=

図4 直流電圧の測定と倍率器

Ex

倍率器

R

( )RrE

I x

+=

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テスタ・オシロスコープ-4

(c)交流電圧計

交流電圧を測定する場合には,整流器(ダイオード)で整流した後メータ針を振らせてい

る.図 5 に示すように整流波形は直流と異なって脈流である.例えば 50Hz の場合は 50 回

/秒の脈動が可動コイルに流れる.可動コイルは速い脈動にはついて動けず,図に示した平

均の電流値が流れているときと同じメータ指示をする.この平均電流値が入力電圧の実効

値に等しくなるような目盛りがテスタのメータ指示部に記されている.

テスタ

r = 1kΩA

I直流電流計(メータ)

+端子 -端子

図5 交流電圧の測定と整流器

倍率器

R

整流器

交流電圧

電圧

時間

平均値

(d)抵抗計(オーム計)

図 6 に示す回路において,E,r,R が一定であれば,回路に流れる電流 I を測定するこ

とで未知の抵抗 Rx を知ることが出来る.このときテストリードをショートしたとき(Rx=0

のとき),無限大の電流が流れないようにテスタ全体の内部抵抗( r + R)は必ず必要である.

テスタを抵抗計として使用するとき,電源 E にはテスタ内部の電池が使用される.このと

き,図 6 のようにテスタの+端子(赤色)には内部電池の負側,-端子(黒色)には正側が接続

されることに注意する必要がある.

テスタ

r = 1kΩA

I直流電流計(メータ)

+端子(赤端子)

-端子(黒端子)

図6 抵抗の測定原理

倍率器

R

内部電池E

Rx

rRREI

x ++=

( )rRIERx +-=

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テスタ・オシロスコープ-5

[2] オシロスコープの使い方

1.オシロスコープとは

電流や電圧は,時間が変化しても値が一定の直流ばかりではなく,時間とともに変化す

るものが多い.例えば家庭用の商用電源(コンセント)の電圧は 50Hz の正弦波である.コン

ピュータでは急激に変化するパルス状の電圧を用いて,計算処理を行う.このような電圧

(電気信号)の時間的な変化を目に見える形で表示する装置がオシロスコープである.一般

に,オシロスコープの画面上には入力電圧を縦軸,時間を横軸としたグラフが表示される.

2.アナログオシロスコープの使用法

ここでは,アナログオシロスコープの基本的な使用方法を説明する.

図 7 に一般的なアナログオシロスコープの外観を示す.図 7 では基本操作に必要なスイッ

チ以外は省略している.また,スイッチの配置は機種ごとに異なる.詳細は実際に使用す

るオシロスコープの取扱説明書などを参照すること.

POWER INTEN FOCUS ROTATION

VOLT/DIV VOLT/DIV TIME/DIV

INPUT INPUT

POS CAL POS CAL

DC GND AC

COUPLING

DC GND

COUPLING

CH1 CH2

MODE

CH1 CH2 ALT CHOP AUTO NORM

MODE

AC

LEVEL

SOURCE

CH1 CH2 LINE EXT

図7 アナログオシロスコープの前面パネル

TRIGGERINGVERTICAL

HORIZONTAL

POS CAL

各部の説明

・POWER 電源スイッチ

・INTEN Intensity の略.画面上の輝線の明るさを調整する.

・FOCUS 輝線のピントを調整する.

・ROTATION 輝線の傾きを調整する.入力信号がない状態(Coupling を GND とした状態)

で輝線が水平になるように調整する.

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テスタ・オシロスコープ-6

垂直軸調整部(VERTICAL)

MODE 画面に表示する信号を選択する. CH1 CH1(Channel 1)に接続した信号を表示する. CH2 CH2 に接続した信号を表示する. ALT CH1,2 の波形を同時に表示する.CH1(全波形)を表示後,CH2(全波形),CH1(全

波形),…と表示するので,ゆっくりとした信号の場合には CH1 と CH2 の信号が

交互に見える. CHOP CH1,2 の波形を同時に表示する.1 波形表示する間に CH1 と CH2 を少しずつ,

切り替えて表示するので,ゆっくりとした信号の場合でも CH1 と CH2 の両方の

信号観測できる. ADD CH1 と CH2 の波形の合計波形を表示する.

CH1 設定部(CH2 についても同様である)

・COUPLING 入力信号の結合方式を選択する. DC 直流結合する.入力信号がそのまま縦軸に表示される. GND 入力信号を GND(基準電位)に接続する.通常は 0V を入力したのと同じ状態に

なる. AC 交流結合する.入力信号の直流成分を除去し,交流成分のみが縦軸に表示され

る.リップル等の交流成分のみを観測した場合に用いる.

・POS Position の略.縦軸の表示位置を調整する.通常は Coupling を GND とした時に,

画面中央に輝線が表示されるように調整する.

・VOLT/DIV Volts/Division の略.画面上の縦軸の 1 マスあたりの電圧を設定する.画面上

に表示される波形の高さ(何マス分か)に,この設定値をかけることで,電圧値

を読み取る.

・CAL Calibration の略.画面上の縦軸の 1 マスの電圧を VOLT/DIV の設定値から連続的

に可変する.例えば信号が 1.5V の倍数である場合は,1 マスの電圧を 1.5V に設定

しておくと,何倍かが読み取り易い.ただし,1 マスの電圧が VOLT/DIV のツマミ

の表示と異なるので,通常は右にいっぱいに回して機能を off にしておく.機種に

よっては VOLT/DIV つまみと一体になっている.

・INPUT 入力信号を接続する.通常は BNC 端子が採用されている.

水平軸調整部(HORIZONTAL)

・POS 横軸の表示位置を調整する.通常は画面両端で輝線が途切れないように調整する.

・TIME/DIV Time/Division の略.画面上の横軸の 1 マスあたりの時間を設定する.画面上

に表示される波形の長さ(何マス分か)に,この設定値をかけることで,時間を

読み取る.

・CAL 画面上の横軸の 1 マスの電圧を TIME/DIV の設定値から連続的に可変する.縦軸

と同様に,通常は右にいっぱいに回して機能を off にしておく.

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テスタ・オシロスコープ-7

トリガ調整部(TRIGGERING)

※※※ トリガの役割は”3.オシロスコープの構造”を参照すること ※※※

・MODE トリガ信号の発生方式を選択する. AUTO トリガが掛かっている時はトリガタイミングに合わせて掃引する.トリガが

かからない場合でも,適当なタイミングで掃引を行う. NORM Normal の略.トリガがかかった時のみ,掃引を行う.

・LEVEL トリガをかける信号レベル(トリガレベル)を調整する.

・SOURCE トリガ信号源を選択する. CH1(CH2) CH1(CH2)の入力信号をトリガ信号源とする. LINE 商用電源信号をトリガ信号源とする. EXT External(外部)の略.EXT.TRG 端子に接続した信号をトリガ信号源とする.

通常の測定手順

1)電源を入れる.

2)TRIGGERING MODE を AUTO,TRIGGERING SOURCE を CH1にする.

VERTICAL MODE を CH1 にする.

CH1 COUPLING を GND にする.

画面上に表示される輝線が目盛線と平行になっていることを確認する.傾いている場合

は ROTATION で調整する.必要であれば,INTEN,FOCUS を調整する.

3)CH1 POS ツマミで 0V の位置を決める.通常は画面中央にあわせる.信号が正(負)電圧の

みの場合は,画面下方(上方)に 0V をとると,画面全体を有効に使える.CH2 も使用する

場合には,VERTICAL MODE を CH2 として同様に調整する.

4)CH1 INPUT 端子に測定する信号を接続し,CH1 COUPLING を DC とする(直流分をカッ

トした交流信号のみを観測したい場合は AC とする).入力信号にあわせて,VOLT/DIV,

TIME/DIV ツマミを調整する.静止した波形が表示されない場合は,TRIGGERING

LEVEL ツマミを調整する(トリガの調整は”3.オシロスコープの構造”も参照すること).

5)2 つの信号を観測する場合は,CH2 について,4)と同様の調整を行う.この場合は,

VERTICAL MODE を CH1・CH2 と切り替えて使用するか,ALT または CHOP として 2

波形を同時に表示させる.

6)波形を観測し記録する.

1 波形表示では,信号の形状,振幅(大きさ)や,周期(周波数)を測定できる.

2 波形同時表示では,2 つの信号の時間関係(時間遅れ,位相差)を測定できる.

※波形をグラフ用紙などに模写する時は,CH1,CH2 の波形を線種・記号で区別する

のはもちろんのこと,それぞれの波形について,0V の位置,VOLT/DIV の設定値,

TIME/DIV の設定値も合わせて記録すること.

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テスタ・オシロスコープ-8

3.アナログオシロスコープの構造

オシロスコープは図 8 に示すように,波形を表示する陰極線管(CRT),入力信号を増幅す

る増幅回路,CRT 上の輝線の以上速度を決める時間軸信号発生回路,そして CRT 上の輝線

の移動開始時刻を決めるトリガー信号発生回路の4つの部分から構成されている.オシロ

スコープに用いる CRT は電子銃から放たれた電子線を縦・横方向に移動させる,二組の偏

向板を持っている.通常,縦方向の偏向板には AMP で増幅された入力信号を印加し,入

力信号に応じて輝線を上下方向

に変化させる.横方向の偏向板に

は,時間とともに直線的に変化す

る三角形状の電圧(鋸歯状波,の

こぎり波)を印加し,輝線を時間

とともに横方向に移動させる.時

間軸信号発生回路が三角形状波

を発生させる.

トリガ信号発生回路は時間軸

信号の発生タイミングを調整す

る働きをもっている.図 9(a)のように,入力信号と時間軸信号が同期している場合,CRT

上には同一の波形が連続して表示される.しかし,図 9(b)のように入力信号と時間軸信号

の同期が取れていない場合は,CRT 上にはタイミングの異なる波形が次々と表示されるた

め,波形を正しく観測することがでない.トリガ信号発生回路は,トリガソース信号が基

準となる電圧(トリガレベル)を横切ったときに,時間軸波形がスタートするように調整し

ている.トリガソース,トリガレベルは,トリガ調整部のつまみ・スイッチで設定する.

入力信号

時間軸信号

CRT

入力信号

時間軸信号

CRT

表示される波形

表示される波形

トリガレベル

(a)トリガの かかった状態

(b)トリガのかかって いない状態

トリガレベル

図 9 トリガの状態と表示波形の関係

電子銃

電子ビーム

CRT

時間軸信号発生回路

増幅回路

トリガ信号発生回路

入力信号

外部トリガ

垂直方向偏向板水平方向偏向板

図 8 オシロスコープの構造

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テスタ・オシロスコープ-9

[3] デジタルオシロスコープの使い方

1.デジタルオシロスコープ

近年のデジタルエレクトロニクス技術の発展にともない,様々な測定機器がデジタル化

されている.オシロスコープも例外ではなく,現在はデジタル技術を導入したデジタルオ

シロスコープが主流となっている.デジタルオシロスコープとは,入力された(時間的に変

化する)電圧信号を A/D 変換(アナログ/デジタル変換)サンプリングしてデジタル化した

データをコンピュータメモリ上に記録し,液晶モニタ等にグラフィック表示することでオ

シロスコープの機能(電圧の時間的な変化を目に見える形で表示する機能)を再現した測定

装置である.画面上にはアナログオシロスコープと同様に,入力電圧を縦軸,時間を横軸

とした電圧波形が表示され,アナログオシロスコープのもつ機能のほとんど全てがデジタ

ル技術によって再現されている.さらに以下のような機能が追加されている.

・ストレージ機能:測定データをメモリ上に記録しているため,波形を拡大・縮小して表

示したり,単発現象の波形を止めて観測したり,トリガよりも前の波形を確認でき

る.また,メモリ上のデータを USB メモリなどに保存できる機種もある.

・自動測定機能・カーソル機能:メモリ上に記録した波形データから,電圧の最大・最小

値や周波数などを自動的に求め画面上に表示したり,カーソルバーを使って電圧や

時間の値・差を読み取ることができる.

・波形データの演算機能:複数の測定chのデータ間の演算や,測定データの周波数分布

(FFT)を求めることができる.

※これらの機能は機種ごとに異なる.詳細は取扱説明書等を参照すること.

一方,エイリアシングやデッドタイムなど,デジタル機器特有の短所があり,測定の際に

は注意が必要である.

2.デジタルオシロスコープ (IWATSU DS-5100 シリーズ)の使用法

ここでは本実験で使用するデジタルオシロスコープ(DS-5100 シリーズ)を用いた,基本的

な電圧波形の観測手順について解説する.ただし,COUPLING,VOLT/DIV,TIME/DIV な

どの用語の意味はアナログオシロスコープと同様であるので ”[2] オシロスコープの使い

方”の該当箇所を参照すること.また,DS-5100 シリーズではメニューの表示言語を選択で

きる.以下の説明では日本語表示が選択されているものとする.

各機能の詳細や,ここで説明していない機能については取扱説明書を参照すること.

DS-5100 シリーズを用いた電圧波形の測定手順(基本)

図 1 に DS-5100 シリーズの前面パネルの概観を示す.丸数字は今後の説明のための番号

である.取扱説明書の p.2-5~p.2-7 と揃えてあるので,より詳細な説明が必要なときは取扱

説明書を参照すること.

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テスタ・オシロスコープ-10

⑦ AUTOSTUP COPY ACQUISITION UTILITIES DISPLAY

SAVE/RECALL

FUNCTIONCURSORS MEASURE AUTO NORMAL

STOP/SINGLE

PUSHFIND LEVEL

MENU

MANUALTRIGGER

PUSHZERO DELAY

PUSHZERO OFFSET

MENU

PUSHZOOM

PUSHFINE/COARSE

MATH

1

2

REF

CH1 X

CH2 Y

EXT

MENUON/OFF

⑧⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬

⑯ ⑰

図 1 IWATSU DS-5100 シリーズ前面パネルの概観

1)電源を入れる.スイッチは本体の左部上面にある.

2)TRIGGER の設定

TRIGGER 設定部⑳の AUTO キーを押して TRIGGERING MODE を AUTO にする.

TRIGGER 設定部⑳の MENU キーを押すと,ディスプレイ①に図 2(a)の TRIGGER メニュー

が表示される.さらにファンクションキー⑭の上から 2番目を押すと図 2(b)のサブメニュー

が表示される.FUNCTION ノブ⑮を回してサブメニューの”CH1”を反転させて,

FUNCTION ノブ⑮を押し込むことで,TRIGGERING SOURCE を CH1に設定する.

Trigger

モードエッジ

信号選択CH1

スロープ

結合ホールドオフ

MENUON/OFF

Trigger

モードエッジ

信号選択CH1

スロープ

結合ホールドオフ

MENUON/OFF

CH1CH2EXT

EXT/5ACライン

(a) (b)

図 2 TRIGGER メニュー

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テスタ・オシロスコープ-11

3)垂直軸(VERTICAL AXIS)の初期設定 VERTICAL 設定部⑱の 1 を押すと画面に図 3(a)の VERTICAL メニューが表示される. ファンクションキー⑭の 1 番目を押し,表示されたサブメニューから”GND”を選ぶ

(FUNCTION ノブ⑮を回してサブメニューの”GND”を反転させて,FUNCTION ノブ⑮を

押し込む).この操作で,CH1 COUPLING が GND に設定され,画面に黄色いラインが表示

される. ※黄色いラインが表示されない場合 VERTICAL 設定部⑱の OFFSET ノブ(PUSH ZERO OFFSET と書かれている)

を押し込んでみよ(OFF SET が画面中央に設定される). VERTICAL 設定部⑱の OFFSET ノブ(PUSH ZERO OFFSET と書かれている)をまわして

0V の位置を決める.通常は画面中央にあわせる.信号が正(負)電圧のみの場合は,画面下

方(上方)に 0V をとると,画面全体を有効に使える.

CH1

結合DC

帯域 20Mオフ

プローブ1X

反転オフ

MENUON/OFF

MENUON/OFF

直流

交流

GND

(a) (b)

ディジフィルタ

CH1

結合DC

帯域 20Mオフ

プローブ1X

反転オフ

ディジフィルタ

図 3 VERTICAL メニュー

4)CH1信号の観測

CH1 INPUT 端子(CH1 X と表示されている)に測定する信号を接続し,CH1 COUPLING

を DC とする( 3)の手順で”GND”ではなく”直流”を選択する.ただし,直流分をカットし

た交流信号のみを観測したい場合は”交流”とする).

入力信号にあわせて,VERTICAL 設定部⑱の VOLT/DIV ノブ(PUSH FINE/COARSE と表

示されている),HORIZONTAL 設定部⑲の TIME/DIV ノブ(PUSH ZOOM と表示)を調整

する.現在の VOLT/DIV,TIME/DIV の値はディスプレイ下部に表示される.

静止した波形が表示されない場合は,TRIGGER 設定部⑳の TRIGGERING ノブ(PUSH

FIND LEVEL と表示)を回して TRIGGER LEVEL を調整する.

MENU ON/OFF キー⑦ を押して,サブメニューを消した状態で,FUNCTION ノブ⑮を回

して波形を見やすい明るさに調整する.

5)2 つの信号を同時観測する場合は,3)~4)の手順を CH1 を CH2 に読み替えて同様の調

整を行う.DS-5100 シリーズでは CH1 の波形は黄色,CH2 の波形は紫色で表示される.

6)波形を観測し記録する.

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テスタ・オシロスコープ-12

便利な機能

ここでは,DS-5100 シリーズに搭載されている”便利な測定機能”の一部を紹介する.機能・

手順の詳細は取扱説明書を参照すること.

ただし,これらの機能を利用するときは,装置を過信せずに,観測したい波形が正しく表

示されているか常に注意すること.

・オートセットアップ

入力信号が周期信号であるとき,AUTO SETUP キー⑧をおすと,入力信号を観測しやす

いように VERTICAL,HORIZONNTAL 軸が自動で設定される.ノイズが大きい場合,ノイ

ズ信号が表示されることがあるので注意すること!!

(取扱説明書 p2-21 参照)

・カーソル

ディスプレイ上に 2 つの上下(電圧),または左右(時間)の直線カーソルを表示し,カー

ソル間の電圧 or 時間を測定する(ディスプレイ隅に電圧差 or 時間差が表示される).入力

信号の振幅や,2 つの信号の時間差を測定するのに便利である.

(取扱説明書 p.3-87 参照)

・アベレージ

入力信号が周期信号であるとき,複数回の掃引の平均波形を表示する.観測したい波形に

高周波のランダムノイズが載っている場合,平均処理によってランダムノイズを軽減する

ことができる.

(取扱説明書 p.3-46 参照)

・自動測定

入力信号の振幅,最大・最小電圧,平均電圧,実効値電圧,周期,周波数などを自動的に

求めてディスプレイ上に表示する.

(取扱説明書 p.3-80~ 参照)