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学科共通科目(2015年度) 第14回 倫理的な正しさとは何か その4 まとめと補足 (2)

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Page 1: 学科共通科目(2015年度 - Tokushima U学科共通科目(2015年度) 第14回 倫理的な正しさとは何か その4 まとめと補足 (2) 4.4リバタリアニズムの諸問題

学科共通科目(2015年度)

第14回 倫理的な正しさとは何か

その4 まとめと補足

(2)

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4.4リバタリアニズムの諸問題 ―リバタリアニズムの補足―

• リバタリアニズムは国家(政府)の役割はできるだけ小さい方がよいと考える。

• リバタリアンの中には、国家のない社会を考える論者(アナルコ・キャピタリズム)もいる。

• →「国家とは本来いかなるものであるか」を考える参考になる。

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• あらゆるものを民営化し、市場に委ねようとする傾向がある。これはそもそもリバタリアニズムに由来する発想である。

• →これを推し進めていくと何がもたらされるか

を考えることも今後の社会のあり方を考える上で参考になる。

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アナルコ・キャピタリズム

• リバタリアニズムの最も純粋で極端な形態

• 国家の必要性を一切認めない徹底した立場

• 自由市場経済に対するゆるぎない信頼

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最小国家論と古典的自由主義

• 最小国家論=警察や司法や国防の役割だけを果たす「夜警国家」を提唱

• 古典的自由主義の立場=国家は警察や司法や国防以外に、ある程度の福祉やサーヴィスの活動を認めてよいとする立場

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リバタリアニズムの区分

• 国家観の違いによって、無政府資本主義、最小国家論、古典的自由主義に分類される。

• 無政府資本主義は、国家の存在自体を否定し、司法・治安・国防をも市場が提供することが可能だとするもの。主な論客としてM.ロスバード、D.フリードマンなどが挙げられる。

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• 最小国家論は、司法・治安・国防のみを国家の役割として認めるもの。ノージックやA.ランドらが代表者である。

• 古典的自由主義。国家に最も大きな役割を認めるもの。F・A・ハイエク、ミルトン・フリードマン、J・M・ブキャナンなどに代表される。

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(1)福祉国家に対する批判と最小福祉国家

• リバタリアニズムの福祉国家批判の要点

• 福祉国家は非効率的で個人の自由を侵害するものであり、人々を政府に対して依存的な性質にする。

• リバタリアニズムは福祉国家に対して批判的である一方で、民間企業や各種ボランティア団体、相互扶助団体の活躍に期待している。

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• リバタリアンは、国による強制的な福祉の供給には反対するが、市場やコミュニティなどの民間領域における人々の自発的な福祉の提供には賛成する。

• 福祉国家ではなく福祉社会をめざす。

• 最小国家よりも大きく、福祉国家よりも小さな国家が「最小福祉国家」であり、この最小福祉国家を支える穏健なリバタリアニズムが古典的自由主義である。

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福祉国家の非効率

• 福祉国家においては、肥大化した官僚機構が采配をふるって福祉行政が行われるが、それらは市場原理に基づかずに行われているため、非効率が生じる。

• 福祉国家においては、需要に見合った供給がなされず価格も需要に関係なく決定される。

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• 福祉サービスの受益と負担の一致が要求されないことによって、自分の懐を痛めることなく必要以上のものを獲得しようとするインセンティブを人々に与えることになり、非効率的な分配が生じる。

• 福祉国家において政府が独占的に福祉サービスを提供することこそ、家族や地域共同体の自助・相互扶助活動を停滞させる原因になっている。

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リバタリアニズムとコミュニタリアニズムに共通する点

• 地域共同体の自助・相互扶助活動に関しては、リバタリアニズムとコミュニタリアニズムに共通する点が見られる。

• 理想的な国家像については両者はそれぞれ異なるビジョンをもってはいるものの、人々が相互扶助活動によって自発的に福祉サービスの供給に取り組む福祉社会の重要性を強調する点では共通している。

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• リバタリアニズムも共同体論も、福祉については、まずは自助、そして家族、地域共同体、国家という順に責任を負うという補完性の原理に基づいている。

• リバタリアニズムは共同体からの離脱の自由を尊重する点で、共同体論と袂を分かつ。それゆえ、自発的な相互扶助活動の促進を望ましいと考えるとしても、それを共同体の成員の義務として強制することはできない。

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古典的自由主義と社会保障

• 極端なリバタリアンではないかぎり、リバタリアニズムは社会保障制度の全面的な禁止までは主張しない。

• 穏健なリバタリアンである古典的自由主義者は、福祉国家の弊害を批判しつつも、福祉国家の基軸である社会保障制度の存在は容認する。

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• 社会保障制度の必要性や有用性は認めるものの、現行の福祉国家における制度のあり方については異議を唱える。

• リバタリアニズムは財の再分配を要請するような平等主義を、福祉国家を基礎づける考え方としては認めない。

• したがって配分的正義を認めない。

• しかし、最小福祉国家を認めるリバタリアニズム(古典的自由主義)は、或る種の平等主義は認める。

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分配における平等

• 分配における平等という理念に対しては、優先性説と充足性説がある。

• 優先性説とは、より暮らし向きの悪い人々に対する利益にはより大きいウェイトが与えられ優先されるべきだという考え方である。

• 充足性説とは、分配において重要なのは経済的平等ではなく、各人にとって充分であるだけもつことであるという考え方である。

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• 充足性説は生存権に係わるとされる。

• 社会経済的不平等は最も不遇な立場にある人々の期待便益を最大化するものでなければならないというロールズの格差原理は、優先性説に分離される。

• 穏健なリバタリアニズムは充足性説によって生存権を保障するが、充足性の基準に具体性をもたせようとすると問題が生じる。

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(2)刑罰制度

• 無政府状態では、法や権利はどうなるか。

• もし国家法だけを「法」と呼び、国家法の権利だけを「権利」と呼ぶならば、法や権利は存在しないことになる。

• しかし、権利ということで考えられるのは、人身の自由のような、いかなる社会においても認められるべき人権であり、無政府状態における法として考えられるのは、そのような権利を取り入れた、慣習的あるいは自発的な社会的ルールのことである。

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• 無政府状態には定義上国家や政府は存在しないが、市場や或る種の社会は存在しうる。

• 国家的強制がなくても、人々は自発的に家族を形成したり、人格的な関係を結んだり、経済的な取引をしたりできる。財産権やさらには貨幣という制度も国家なしに成立できる。

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損害賠償一元論

• 刑罰制度に対するリバタリアニズムの思想として、「損害賠償一元論」がある。

• 損害賠償一元論は、刑罰制度を廃止して損害賠償制度へ一元化しようとする考え方である。

• 損害賠償一元論によって、現行の刑罰制度ではこれまで見過ごされてきた問題として、犯罪被害者救済の問題が明るみに出される。

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リバタリアニズムが刑罰制度を批判する理由

(1)刑罰制度は、国家刑罰権という国家による

あからさまな実力行使を認めている。法執行には誤りの可能性があるから、法執行によって無辜の人々の自己所有権、私有財産権が国家によって侵害されることになり、個人の自由が侵されることになる。

(2)刑罰制度によっては犯罪被害者に対する不正義への対処がほとんどなされない。

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刑罰制度の下では、被害者の損害が回復されることは困難である。なぜなら、多くの場合において加害者の資力は乏しいために損害賠償を行うことができないだけでなく、有罪判決を受けて刑務所に拘束されてしまうと少なくとも刑期を終えるまでは市場水準の賃金を得ることはできないため、損害賠償を行う用意ができないからである。

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しかも、加害者を捜査、逮捕、起訴し、刑務所の管理・運営のためにかかる費用は税金として被害者からも徴収されている。被害者は、加害者が権利侵害を行った時点で第一次的な被害を受け、加害者が生活する刑務所施設の管理・運営費を支払う時点で第二次的な被害を受ける。

(3)刑罰制度の正当化としての犯罪抑止力と刑罰との関係は不明確である。

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損害賠償制度に一元化しようとする試み

• 国家刑罰権に基づいた刑罰中心の刑事司法のパラダイムから損害賠償という新たなパラダイムへの転換を図るものである。

• この考えによると、犯罪とは社会全体に対する違法行為ではなく、被害者個人の権利に対する違法行為であり、正義とは犯罪者を罰することでではなく、被害者の損害を回復することである。

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• 刑事司法の目的は、犯罪者に刑罰を科すことではなく、犯罪者による被害者への損害回復を実現することである。このとき損害賠償を、懲罰的損害賠償と考えるか、純粋損害賠償と考えるで、対処が分かれる。

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懲罰的損害賠償

• 加害者による権利侵害によって被害者が被った損害の補償を超えて、加害者に制裁を科す目的で賠償額が決定される。つまり懲罰的損害賠償は、被害者の損失の補填を超えて加害者に対する懲罰や一般予防を目的としている。

• 賠償額は実際の損害によってではなく、加害者の財産状態によって算定される。だが、被害者が実際に受けた被害以上の額を加害者に対して請求することは、リバタリアニズムの立場からは正当化されない。

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純粋損害賠償

• 純粋損害賠償は、被害額に加害者を逮捕・起訴するためにかかったコストを加えた総額の賠償を意味している。この場合、被害者は奪われたものが戻されるだけであり、犯罪抑止効果に欠けるのではないかという疑問が生じる。だが加害者を逮捕・起訴するためのコストも含まれるため或る程度の抑止力をもちうるし、純粋損害賠償を超えて刑罰を科したからといってそれに応じて抑止力が高まるわけでもない。

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「哲学・思想の基礎」レポート (石田担当分)

• 課題: 「能力のある者、努力をした者にはそれにふさわしい報酬を受け取る権利があるが、能力のない者、努力を怠った者が不遇な状態に置かれるのは当然である」という自己責任の考え方について、現代リベラリズム、リバタリアニズム、コミュニタリアニズムに関連づけ、新自由主義、現代の格差社会、機会均等、能力主義(成果主義)、社会保障(税制やセーフティネット)、社会の連帯性などにも触れて、自分の意見を述べなさい。