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Post on 14-Jul-2020
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MRI 分野
座長集約 非造影 MRA を考える その3
- ASL(Arterial Spin Labeling)法を用いた非造影 MRA について -
座長 青森市民病院 診療放射線部 古山 智明(Koyama Tomoaki)
一昨年・昨年に引き続き、非造影MRAをテーマとしました。今回はASL(Arterial Spin Labeling)の手法を
用いた非造影MRAとしてTime-SLIP(Time-Spatial Labeling inversion Pulse)法(東芝メディカルシステム
ズ)を中心とした内容としました。
Time-SLIP法は、2001年に開発されてから腹部領域血管の選択描出が可能となり、腎動脈をはじめに子
宮動脈・門脈などの報告がされています。近年では、予稿集でも触れたようにDelay Timeを細かく刻むこと
で、3D-DSAのような画像を得たり、FBI法では難しかったシャントの描出や、血管だけではなく脳脊髄液の
流れの観察、肺動静脈の分離描出の検討など幅広く応用されています。今回は、基礎編としてパラメータ
の変更による影響について、ファントムとボランティアについて検討していただきました。また、臨床編として
特に撮像の多い、腎動脈と門脈を中心に臨床におけるポイントやテクニックについて発表していただきまし
た。
弘前大学医学部付属病院 放射線部の大湯和彦さんは、GE社製 Signa HDxt 1.5T ver.16と東芝社製
Excelart Vantage P.P.P 1.5T ver.9.51で検討していただきました。ファントム実験において、同一条件下で
は、スラブの厚さが厚くなると流入部から離れるほど信号が低下する。また、流速が早いほど描出能が良く
なるといった、Time-Slip法の特徴をとらえることができていました。Delay Timeの変化(IFIR)では、描出に大
きな変化がなかったとしているが、Delay Timeの設定範囲が大きく取れないことが原因と思われました。
Time-Slip法では、選択的IRパルスの厚さや位置の検討で、その設定範囲以上で選択的IRパルスが印加さ
れている様子が確認されました。ボランティアによる検討では、得られた結果からスライス厚2mm、マトリクス
256×256 Delay Time1200msecが適当であるとしていましたが、被検者の状態により描出不良となる可能
性があるため何らかの対策が必要であると結んでいました。大湯さんの施設では、横断像の撮影しかでき
ないとの事なのでなかなか難しいとの事でした。会場いらしたメーカーのコメントによると、現在は冠状断撮
影など、パラメータの自由度が増えたという報告があり今後に期待したいと思います。
福島県立医科大学付属病院 放射線部の石川寛延さんは、腎動脈の撮影においてシーケンスの選択・
選択的IRパルスの位置・厚さ・Delay Time・脂肪抑制・呼吸等について詳細に報告していただきました。選
択的IRパルスは、上端をできるだけ腎動脈付近にする、また厚くする事で下大静脈の流入を抑える事をポ
イントとしていました。脂肪抑制では、Fat SatとSTIRによる使い分けについて抑制効果と背景信号の回復を
考慮に入れDelay Timeの長さにより選択すべきとしていました。また、安定した呼吸を得ることが重要とした
上で、音声ガイドを使うなどの工夫もされていました。門脈撮影では、2Dで撮影できるPrepを用いて最適
Delay Timeを求めることができ大変有用であるとしていました。非造影MRAでは、メリットとして被検者の協
力が得られれば複数回撮影でき、腎機能が低下された方でも検査が可能です。デメリットとして、目的血管
以外の血管を同時に描出する事が難しく、事前の生理状態を把握する事できれば、よりTime-Slip法を活
用できると結んでいました。
腎動脈の撮影では、門脈撮影のように適切なDelay Timeを検索するツールが現在はなく、より安定した
検査を行うための工夫と、血管の蛇行などによる乱流と思われる描出不良など、被検者に左右されない撮
影法の確立が必要と思われました。
最後に、3年間テクニカルミーティングの座長をさせていただきありがとうございました。私自身も、たくさ
んのことを経験させていただきました。非造影MRAについて3年間やってきたわけですが、少しでも皆さん
の役に立てれば幸いです。
- 基礎編 -
弘前大学医学部附属病院 放射線部 大湯 和彦(Ohyu kazuhiko)
【はじめに】
ASL(arterial spin labeling)法は飽和パルス、または反転パルスを用いて特定の位置に存在するスピンに
印をつけることをスピンラベリングと呼び、撮像断面内に流入する動脈血を対象にする場合がASLと呼ばれ
る。通常は非造影で灌流画像を得るために用いられる。
Time-SLIP(Time-spatial Labeling Inversion Pulse)法は反転パルスを用いて、血管を選択的に描出する
方法で描出したい血液を、選択的IRパルスや非選択的IRパルスでラベリングし、ある一定の時間をおいて
データ収集を行方法で、収集方法はMove-In,Move-Outの2種類がある。今回、当院装置に搭載されてい
るInhance 3D Inflow IR(以下IFIR)とTime-SLIP法を用いて基礎的検討を行った。
【方法】
基準となる撮像条件をもとに各パラメータを変化させ撮像し、画像の視覚的評価を行った。
1. ファントム撮像 (Fig.1,2)
自作ファントム内のチューブに循環ポンプを用いて水を循環させ基準パラメータの各値を変化させ撮
像を行った。CNR(チューブ内・周囲(寒天))の算出も行った。
2. ボランティアによる撮像条件
本研究に同意の得られた健常ボランティア2名をスライス厚、マトリックス、Delay Timeを変化させて撮
像した。
【結果】
1. ファントム撮像
1) スライス厚(IFIR)(Fig.3,4)
スライス厚を1~5mmまで変化させ撮像を行っ
た( slabの開始位置は同じ)。スライス厚が
3,4,5mmでは流出部の信号低下がみられ、流入
部・流出部のCNRを算出すると流出部の低下が
みられた。これは撮像範囲が広いため選択的IR
パルスの影響を受けていない液体が到達してい
たためと考えられる。
2) マトリックス(IFIR)
マトリックスを128×128、192×192、256×256、
512×512で撮像を行った。128×128、192×192
Fig.1 ファントム① Fig.2 ファントム②
Fig.3 スライス厚の変化
ではボケているため256以上が必要と考える。
3) DelayTime(IFIR)
模擬血管の描出には大きな変化は生じなかっ
た。
4) 流速(Fig.5,6)
IFIRでは流速が遅い場合流出部における信号
低下がみられた。選択的IRパルスを受けていない
液体が到達しきれないためと考えられる。
Time-SLIPでも遅い流速ほど流出部の信号低下が
みられた。模擬血管の信号ムラが見られたが、選択
的IRパルスがチューブ内の信号を完全に抑制でき
ていなためと考えられた(流速0cm/secの画像でチ
ューブ内に信号が残っていた)。
5) 位置、横方向
模擬血管の位置が変わっても信号変化は見ら
れなかった。横方向に配置した場合、両者共に
信号強度は低下した
6) 選択的IRパルスの厚さ(Time-SLIP)(Fig.7)
厚さを変えて撮像を行った。設定した領域で
背景の信号が抑制されていたが範囲が大きくな
るほど、背景の信号は高くなっていた。
7) 選択的IRパルス位置(Time-SLIP) (Fig.8)
撮像範囲の上下に選択的IRパルスを設定した
場合でも撮像範囲内で信号低下がみられた。実
際の設定範囲より広い範囲で選択的IRパルスが
印加されていることが確認された。
8) 位相方向(Time-SLIP)
位相方向をswapさせると折り返りのアーチファ
クトが著名となり模擬血管内の信号は低下したが、
折り返り防止を入れるとアーチファクトは抑制され
チューブの信号はswap前と同様になった。
Fig.8 選択的 IR パルス 位置の変化
上
中
下
Time-SLIP:選択的IRパルス 位置の変化(Cor)
スキャン範囲
選択的IRパルス
CNR
0
2
4
6
8
10
12
14
3mm上 3mm下 4mm上 4mm下 5mm上 5mm下 位置
CNR
Fig.4 CNR(スライス厚の変化)
Fig.5 Delay Time、流速の変化
流速変化-位置の違い
0
2
4
6
8
10
12
10cm/sec 20cm/sec 30cm/sec流速
CNR
上
中
下
Fig.6 CNR(流速の変化)
Fig.7 選択的 IR パルス 厚さの変化
スキャン範囲
選択的IRパルス
50mm~250mm 50mm毎
50mm 100mm
150mm 200mm 250mm
Time-SLIP:選択的IRパルス厚さの変化(Cor)
2. ボランティア撮像
1) スライス厚(Fig.9)
4,5mmでは画像が全体的にボケている印象があり、2mmと3mmを比較すると末梢の描出に明らか
に差があり2mm程度の設定が必要と考えられた。
2) マトリックス(Fig.10)
ファントム実験同様128、192ではボケている印象があり、512の場合は少しノイズが目立っていた。
撮像時間は呼吸数に影響するため256が適当であると考えた。
3) Delay Time(IFIR)
1000msecでは末梢の描出が悪く1400msecでは背景の信号が回復している。CNR(腎血管-腎実
質)でも1200msecが高い値となった。
【まとめ】
今回の検討ではスライス厚2mm、マトリックス256×256、Delay Time1200msecが適正条件と思われた。し
かし、血流の遅い患者の場合、Delay Timeが1200msecだと選択的IRパルスの影響を受けていない血液が
末梢に到達できず描出不良となる可能性が示唆された。この場合はDelay Time を延長するか、Slabの開
始位置を変更するなどの対策が必要と考えられた。
【謝辞】
今回の発表にあたりご協力いただいた、青森市民病院 古山座長、弘前大学医学部附属病院 MEセン
ター、弘前大学医学部附属病院 放射線部の皆様に、この場を借りて御礼申し上げます。
【参考文献・図書】
1) 荒木 力:MRI完全解説.秀潤社 P583-587
2) 天沼 誠 他:腎動脈、子宮動脈描出におけるinhance inflow IR法の有用性.GE Today
3) 小倉 明夫:MRI臨床画像のCNR測定法に関する精度. 日本放射線技術学会雑誌 Vol.60 No.11
P1543-1549
Fig.9 スライス厚変化 Fig.10 マトリックス変化 coronal
- 臨床編 -
福島県立医科大学附属病院 放射線部 石川 寛延(Ishikawa Hironobu)
【はじめに】
近年、腎機能が低下している患者にガドリニウム造影剤を投与すると、腎性全身性線維症(NSF)という重
篤な副作用が生じる可能性があるという認識が広まってきており、MRI装置での血管撮影において、非造
影MRA撮影が注目されている。
今回、ASL(arterial spin labeling)法を用いた東芝社のシーケンスであるTime-SLIP(Time-Spatial
Labeling inversion Pulse)法の臨床における使い方や注意点についてボランティア撮影を中心に検討し
た。
当院で撮影している主な部位は、腎動脈、門脈、CSFであるが、主に腎動脈、門脈について報告する。
【Time-SLIP法とは】
Time-SLIP法とは、目的領域に選択的にInversion pulseをうち、信号を反転させ、BBTI(Black Blood Of
Inversion Time)後の血流を描出するものである。この選択的にtagをかけた領域に流入してくる血流を描出
することをMOVE IN、tagをかけた領域から流出していく血流を描出することをMOVE OUTという。
【腎動脈撮影について】
(検討項目)
・ シーケンスの選択
・ Tagの位置
・ Tagの厚さ
・ BBTI値が描出に与える影響
・ 脂肪抑制法
・ 呼吸が描出に与える影響
シーケンスは、FASEとSSFPが選択できるが、FASEでは腎動脈の流入部が描出されない。これは、FASE
は流れの速いものを収集できないためである。一方、SSFPは流速によらず信号を収集できるという特徴を
持ったシーケンスであるため、腎動脈の流入部も描出できると考えられる。以上からシーケンスはSSFPを選
択するのがよい。
Tagの位置は、tagの上端を腎動脈レベルの高さより少し上にするのがよい。腎動脈レベルよりも離れてし
まうと腎動脈まで血流が到達する時間が延長してしまう、すなわちBBTIの延長が必然となる。BBTIを延長
することによって、問題となるのがtag領域内の信号の回復である。BBTIの延長は腎臓と腎動脈のコントラス
トの低下を招くことに注視されたい。
Tagの厚さは、薄くすると下大静脈のMOVE INが目
立ち、腎動脈との重畳が避けられない。厚くすると下大
静脈のMOVE INが軽減されるが、tagのもつスライスプ
ロファイルがより山なりになってしまい、設定したtagの位
置よりも広範囲にtagが効いてしまう。しかし、tagを厚くし
ても腎動脈の描出に遜色はないため、下大静脈の
MOVE INを軽減するようにtagは厚く設定するのがよい。
(Fig.2)
FASE
FASE SSFP Fig.1 シーケンスによる描出の違い
FASE SSFP
Tag 厚 100 Tag 厚 250
Fig.2 tag の厚さによる描出の違い
白い点線が tag の範囲
BBTI値を500ms,700ms,1100ms,2100msと変えて撮影した画像をFig.3に示す。BBTIが短いと、腎動脈末
梢の描出が不十分である。BBTIを伸ばせば腎動脈末梢は描出されていくことが分かる。しかし、前述のと
おりBBTIを延長しすぎると腎臓の信号が回復してコンラストが低下してしまう。脂肪抑制法は、fatsat法と
STIR法が選択できる
が、両者は使い分け
が必要となる。腎動
脈と腎臓の信号比の
観点からすれば、
STIR法を選択するの
がよいが、STIR法で
は尿管や脊髄液など
T1値の長いものの信
号が呼吸回数とBBTI値に依存して顕著になる。呼吸回数が少なく短めのBBTIを設定するときは、fatsat法
を選択する。従って、呼吸回数を考慮して脂肪抑制法を選択すべきである。
腎動脈Time-SLIPは、呼吸同期撮影であるため、呼吸は描出に影響を与える因子の1つとなっている。
患者の呼吸が安定していない場合、同じ位置での信号収集が困難なため画像はボケてしまう。そのために
も検査前に患者に検査の説明をして、きちんと理解してもらうことが重要となる。また、呼吸を安定させること
が難しい場合、音声ガイドを用いて患者をリードする必要がある。しかし、安定しているだけではこのボケは
解消されない。セグメント数を増やしデータ収集時間を短くして、さらに安定している時間が長い所で行わ
なければならない。腎動脈Time-Slip撮影を成功させるには、安定した呼吸かつ安定している時間が長い
所でのデータ収集が重要となる。
【門脈撮影について】
門脈のTagのかけ方は、MOVE INを利用する方法とMOVE OUTを利用する2通りがある。MOVE INは
SSFPや非選択的IR pulseをoffにしたFASEで、MOVE OUTは非選択的IR pulseをonにしたFASEで利用さ
れている。
シーケンスは、SSFPとFASEが選択できる。両者と
も門脈を撮影することが出来るが以下のような問題が
挙げられる。SSFPは肝臓と門脈のコントラスト差が小
さいことや、門脈本幹と下大静脈が重畳してしまう。
一方、FASEは、肝臓と門脈とのコントラストはよく、ま
た、門脈本幹との重なりもないが、信号が位相方向に
分散するようなアーチファクトが見受けられる。
(Fig.4)
門脈を撮影する際の最適BBTI値を肝静脈が描出される前とすると、患者毎に最適BBTI値は異なること
が分かった。そこで、当院では事前に最適BBTI値を求めるツールとして2DBBTIprepを使用している。これ
は、一回の息止めでBBTI値の異なる画像を4,5枚撮影できるシーケンスであり、最適BBTI値を求めるのに
非常に有効なものとなっている。(Fig.5)
Fig.3 BBTI の違いによる描出の違い(左から 500ms,700ms,1100ms,2100ms)
Fig.4 シーケンスによる描出の違い
Fig.5 2DBBTI prep の描出例 最適 BBTI 値 1200ms(左から BBTI1000ms,1200s,1400ms,1600ms)
SSFP
FASE SSFP
【その他のTime-SLIP撮影の紹介】
(頸動脈の動態観察)
BBTI値を徐々に変えて撮影していくことで、頸動脈の走行に左右差があることなど動態の様子が観察で
きる。(Fig.6)しかし、一回の撮影に3分から5分程度要するので、検査時間の延長が避けられない。
(アダムキュービッツ撮影)
脊髄液の信号を落とすように、また、Aortaを避けるよ
うにtagを斜めにかけるのがポイントである。しかし、右側
の肋間(あるいは腰)動脈の信号がtagで信号が落ちる所
があるので描出が難しい。さらに、アダムキュービッツは
細い血管なので、FOVを絞り、スライス厚も薄くして高分
解能にし、また、動きによるボケを軽減するためセグメン
ト数を8にして一回のデータ収集を非常に短くして撮影
する。(Fig.7左)
(CSF撮影)
近年、当院ではクモ膜嚢胞や水頭症の症例において第三脳室や第四脳室にtagをかけて中脳水道への
脳脊髄液のフローを描出するCSF撮影が増加してきている。(Fig.7右)
【造影MRAとTime-SLIP法の比較】
狭窄部位の描出については、造影MRA・Time-SLIP
法共に描出に差異は見られなかった。造影MRAでは描
出された腫瘍の栄養血管は、一回のTime-Slip撮影で
は困難である。Tagの位置を変えて複数回撮影しなけ
ればならない。つまり、非造影では目的血管以外の血
管を同時に描出するのは難しい。一方、造影MRAはそ
れを可能とするが、撮影のタイミングが少しでもずれて
しまうと腎実質の信号が高くなり腎動脈末梢の描出が困
難になる。(Fig.8)また、再撮影が不可能なのが造影
MRAの欠点でもある。
【おわりに】
Time-SLIP法は、患者の生理状態(呼吸、血行動態、血流の速さ)に依存し、パラメータ(tagの位置・厚さ、
BBTI値、脂肪抑制法)の設定にも依存する自由度の高い検査である。 さらに、事前にその生理状態が分
からないということが、撮影を難しいものとしている。実際に、患者を撮影するとボランティアのようにうまくは
行かないことがしばしばある。 しかし、様々な部位の血管を選択的に描出できたり、CSFの流れを描出でき
るのはTime-SLIP法に自由度があり、生理状態を描出できるからである。事前に生理状態が分かれば、より
Time-SLIP法を活用できるようになると考える。また、そのようなツールの研究・開発を期待したい。
Fig.8 非造影 MRA(左)と造影 MRA(右)
Fig.7 アダムキュービッツ(左)と CSF(右)の描出
Fig.6 頸動脈の動態観察
BBTI 700 BBTI 900 BBTI 1100 BBTI 1300
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