title スタンダールのナポレオン il respecta un seul...

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Title スタンダールのナポレオン Il respecta un seul homme : Napoléon. [Essais d'Autobiographie (v)] Author(s) 西川, 長夫 Citation Francia (1960), 4: 41-51 Issue Date 1960-07-10 URL http://hdl.handle.net/2433/137464 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University

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Page 1: Title スタンダールのナポレオン Il respecta un seul …...二づ60δづ色らo駄門p。-8日5二ρα①霞巴辞゜。①雷貯①同9山①閃冨づoρ》、 である。それは結局フランス革命の精神を構成する要素であった切oコ昌碧審・ρ器審日①{貫霞巴。,口づげ$三①

Title スタンダールのナポレオン Il respecta un seul homme :Napoléon. [Essais d'Autobiographie (v)]

Author(s) 西川, 長夫

Citation Francia (1960), 4: 41-51

Issue Date 1960-07-10

URL http://hdl.handle.net/2433/137464

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

Page 2: Title スタンダールのナポレオン Il respecta un seul …...二づ60δづ色らo駄門p。-8日5二ρα①霞巴辞゜。①雷貯①同9山①閃冨づoρ》、 である。それは結局フランス革命の精神を構成する要素であった切oコ昌碧審・ρ器審日①{貫霞巴。,口づげ$三①

スタンダールのナポレオン

囲一

wOωO①Oけ蝉ニロのO⊆一『OヨヨΦ”Zgo℃OぱO旨゜         、

          〔国ωω巴ωα、》OけOσδひQ同笛℃げ一〇(<)〕              、

西  川  長 、夫

     序                    鴨     ω    ゜         、      辱

・                                                                                                                                4

 《ζ巴ω・碧曽導け8ρ 自壁二蝕岳『o冨∞q鑓⇒山目≧①ρ口o一餌   団o昌昌母鉱ω旨o形成の過程を辿る事は、スタンダールの場合フラ 、

鎚o。。江融o窪㊦Z昌竃o昌冒¢①血きω一、8口く冨α①oo8昌き巴》 と述 , ンス革命の跡を辿る事である。革命ーナポレオンースタンダール、こ

べたゾラをはじめ、頃oコ昌碧江ωヨ①がスタンダール文学の一つの支   の三者(角)の関係がスタンダールのωoコ碧碧江ゆ醤oと、その基礎

柱である事を見抜いた人は多い。しかしこの問題を正面から取扱っ  となる思想の形成をほとんど規定している。スタンダールは大革命

た研究は少く、まとまった研究書は無いらしい。入タンダール研究  の六年前に生まれ、二月革命の六年前に死んだ。彼の幼少年、青

の一つの弱点であろう。スタンダールにおけるbdo昌餌℃費この旨①研   年。肚年、老年期はそれぞれ革命、ナポレオン、王政復古、七月王政

究の序論として’誓器冨a°。ヨoの観点からスタAダールを見直す時   の時代にほぼ対応するがスタンダールの思想の方向は幼少年期(即

に開けて来る新しい視野、諸問題を記したい。エゴチストと呼ぼれ   ち革命期)にほとんど決定づけられたと思われる。

る天才が民衆的民族的なものとつながり、強烈な個性とその時代が   歴史に民衆が初めて主人公として登場する時期と、スタンダール

最も見事に結びつく一点としてこの視点は選ばれた。この視野は広   の意識に初めて民衆が現われる時期は一致する。最初のフランス革

く、文体論から思想史的位置づけまでを含むが、ここでは主としてス  命と呼ばれる「屋根瓦の日」、反抗する民衆は幼いベイルの胸に強烈

タンダールのωoづ碧巽葛゜・臼。の構造ともいうべきものを論じたい。  な印象を刻み込んだ。スタンダールは後に、自分の古い半靴を手に持  .

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ちか一杯《密ヨ①誌くgけ①℃㎞oヨo抵くo『酔o噂》と叫ぶ老婆、銃剣   イァニスムの教育に抗して各県に新設され、合理主義を指導原理と  、

で背申から刺された職人の姿を感動的な筆・致で描いている。バステ   して無神論的傾向が強く科学を重視した。U①。,9寓密↓H拶oざ

イーユはその一年後であった。幼いスタンダールは王党的な家庭に  O餌び帥巳ω等イデオローグが重要な役割を果しており、後のスタン

反逆して、熱烈な共和主義者となり、幼時の冒一δつと同じよう  ダールのこれ等イデオローグに対する傾倒と無関係ではない。スタ

にイタリアに向う龍騎兵の軍団を貧り眺めた。やがて祖国の裏切者   ンダ1ルは最初の入学者の一人であり、いわば大革命新教育の第一

冒巳u・凶首の処刑に狂喜したべィルであった。この共和主義  回生であった。彼の数学に対する愛好はべ・イリスムの基礎をなす

者、愛国者としての特色は生涯変らない事をスタンダールは繰返し   《胃①窪s6ま胃帥試ρ呂留冨ヨ傘匿o°》即ち法則を知る事に

強調している。伜①昌魯巴ひoq&ω8の考えにとらわれて、彼の祖国   よって人は幸福になり得るという、科学的合理主義に対する信頼の

愛を軽視する傾向が強いが、正しくないと思う。          象徴的表現であろうが、更に数学教師dロ薯くはかってナポレオン

 この幼い共和主義者愛国者の意識にナポレオンは救国の英雄とし   を教えた事があり、その思い出を雄弁に語っている。

て現れてくる。ナポレオンが最初に認められたッーロンの攻囲は   勘o冨Oopq巴①における短期間の教育がスタンダールに与えた影

幼いベイルの関心事でもあった。その数年後ナポレオンがエヂプト  響を量的に測ることは出来ない。しかしスタンダールの諸特徴とさ

から脱出に成功した時の事をス汐ンダールは次の様に告白してい  れる①日灼三ω旨①’旨⇔鼠ユ巴δヨ①㍉舞δづ巴δヨρ融響び一ざ曽づδ旨① 42

                                                  

る。《匂①ヨ、⇔2ωo傷、四くo貯①二8念ω貯ωぎo警o旧0⑦審ロづo   餌葺学6げ『δぼ9。三・。B①”糞9が同じく閃60冨○⑦ロ窺巴①の指導原理

切oコ昌碧審・ρ器審日①{貫霞巴。,口づげ$三①§oげo旨ヨ。8ヨ旨①  を支えるものであってみれば、そのベクトルの方向は自ずと明らか

二づ60δづ色らo駄門p。-8日5二ρα①霞巴辞゜。①雷貯①同9山①閃冨づoρ》、  である。それは結局フランス革命の精神を構成する要素であった

(=①弓《bd旨冨a℃9碧゜呂)スタンダ!ルの意識におけるナポ   し、又ナポレオンの精神の諸特徴でもある。ここに二人の結ばれる

レオンのこの様な登場の仕方は、後の切o富冨答一ωヨ①を決定する重   可能性がある。ナポレオンは《畜ω巳ω①o冠葺℃、{一一ω侮①冨

要因子であろう。最初から革命と結びつきロマネスクな憧憬の対象  図似き冒鉱8》といったが、スタンダールも又革命の子であった。

であった。                          十六才のスタンダールがブルジョワ的低俗の故に嫌悪した故郷を

 このグルノープル時代の保守的な家庭の圧制が、かえってスタン  離れ、憧れのパリに出て来た時、革命は新しい段階を迎えていた。

ダールに、身近に進行しつつあったフランス革命を憧れさせたので   一七九九年十一月十日、それは霧月十八日のクーデタの翌日であ

                           へ

あるが、この時期のスタンダールの教育の仕上げをしたのが閏8一①  った。U舘二伯に伴われ陸軍省に入る。そこではマレンゴの戦が用

                 

Ω冒ぢ巴①であったことは興味深い。国8δO①旨q巴①は一認い年、   意されている。一八〇〇年五月七日、イタリアに向けて出発。

動乱の最中に国民公会によって開設された。伝統的なクリステ  《Hgooヨ旨①づo①二昌①αBρ二〇α.o算9諺貯ω醤o薄審げ8び①亘【・

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B臥巴θ゜》(出oづ蔓切円巳鎚昏6げ昌゜蒙)スタンダールの生涯は  とんど変っていない。このごつの作品からナポレオンの歴史的行動

ナポレオンの運命に密接に結びつけられる。サン・ベルナール、マ  の転機を示す主要な事件に関するスタンダールの見解を辿っていく

レンゴ、ミラノ、ベルリン、モスクワ、シレジア…、そしてナポレ  と単なる自由主義者、共和主義の概念では理解されない彼の一面が

オンと共に没落。    、                  見出される。スタンダ!ルの批判はナポレオンの野心が密ωε瓢の醤o

                                 の形をとった事に向けられており、それに限られる。敗北の原因も

     ω        、                すべて結局は食oωB梓δヨoの欠陥に帰せられる。スタンダールは

                                冨窃<①昌叡醤一9。貯oからイタリア戦役迄を完全に支持し、特にイ

 スタンダールのナポレオンに関する著作はごつあるがいずれも未. タリア戦役に関しては次の様に記している。《Qo馨¢口①びq鎚⇒留

完である・《楠①oユω一げδ8蹄①山㊦Z僧唱ユ婁眉6舞融B鋤臼①妙   ㊦けぴ巴一①曾6ρ¢①8霞肥国自o冨ρ二⑦oo匂り忌oθo甘oωq自づ①撤d臥。

崖昌賦σ皿一①゜》で始まるミ恥魯〉ミ鷺慰§は一八一七i一八年、   囲曾¢σ二ρ自①の罎一.p暮δ信①α①。。B銘ωヨ漕 o.①。Dδ8霞聞o口昌飴鴇①・

反動政治の厳しいミラノで書かれた。三年後炭焼党員の嫌疑をうけ  ま冒ρ器冨宮屋o昌①2一①皿口ωσ巳冨葺①伍①。。9。〈一。・》情熱

身の危険を感じてパリに去り、残された原稿は手許に戻らなかっ一 的熱狂の対象となり得る時期はベニス占領で終り、それ以後個人的

た。                             利害の混入を指摘しているが、それが明確に現れてくるのはエジプ 43

 ご十年後再び薫§ミ越⇔ωミ、さ驚隷§を書き始める。この間   ト遠征である。しかしこれもユ①の璽δ旨①に対する闘いの一環とし

七月革命をはさんで世情は激変する。[①竃σヨoユ曵審ω巴艮①  て結局は支持されている。ω総裁政府の無能と腐敗。ωブルボン

国泌80をはじめ多くの回想録が発表され、ナポレオンはその死に  復活の危険。㈹第二のポーランドとなる危険。共和国フラン.スを

よって伝説化する。スタンダ!ルは五三才になった。激しいポレミ  守る為にナポレオンの天才を必要とし、彼はその役割を果した。明

ックな調子は影を潜め、老兵として英雄時代と自己の青春を回想す  確な批判が加えられるのは帝政からである。

る。そこにはイタリアという魅惑的な国に於けるスタンダールの青   しかしロシア戦役をはじめナポレオン戦争はほとんど支持され\

春と若い英雄の面影が混同されて語られている。この作品も同じく  一八〇四年以後は専制主義を非難しつつもナポレオンを支持する複

最初から切oコ9。唱碧訟・・冨の立場を表明している。《日、曾『8くo巷①   雑な形をとる。戦争の愚劣を認めつつも反戦論であり得ない。それ

。陰

諸訒@創o器昌鉱旨o耳『o=ひqδ員①づ8帥暮⑩自貯①一9。唱『①ヨ沈同o  はヨーロッパの情勢を「H曾口σ二ρ口oかα①ω冨就ω日①か」のこ者択

喜雷の①伽①『ぼ゜。8一HoαoZ①B一8口゜H一ω.薗ぴq詳(oづ①諏o酔)含覧⊆ω  一の立場で理解したからである。は冒三〇ρ¢oは祖国フランスであ

9q{民げoヨ旨oρ巳p。諄眉震ロ血⇔昌。。冨ヨoづ儀oα①εけO①uD霞・》  り革命で勝ち取った二σ鐙悉と同義である。α①ω翼富ヨoはブルボ

 一一十年を経てもナポレオン支持の情熱の強さと基本的な態度はほ   ンを支持し革命を否定する勢力であった。スタンダールは書いてい

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る。《ド”口8<o一一〇『曾二巨β口o坤①口鴫巴ω⑦旨①宕仁く巴θ忌博oρ二.o昌  族的な熱情のただ中で生きたのだ。この熱狂にスタンダールが直接

の.

@昌く貯o昌づ蝉艮α①鼠冨窪一ρ器・。・》℃《一一鰹巴甘o窪旨騨5仁①、山o  身を晒引のはあのイタリアに於て、しかも最も熱狂的なナポレオン

qgH㊦呼磐2口。唱巴xωo一帥αo①昌窪o冨コo口くo一一〇【曾仁一①5∬①舞   の兵士の中でである。スタンダールの最も良き時代はナポレオンの

8ω言①沖=o。。霞δ㌘8鑓梓一①。。αo『国葺o冨゜》。しかもナポレオン   時代であり、スタンダールの青春、それはフランス民族の青春であ

の侵晒はフランス人にとって圧制に悩む他民族の解放を意味した。  り確信とエネルギトに満ちた時代であった。この感動が

これがナポレオン支持の根本理由であり、ここから津9昌巴一のヨo  卜亀Oぎ蕊越蟄恥恥の最初の頁を形成する。スタンダールの〈Φ昌o糟oq o〉

が生れる。                          の問題もこの民族的熱狂と無縁ではなく、その一つの変形としての

 8のヨoB藻①として有名なスタンダ!ルに塁鉱o昌巴糞oの概  一面を持っている。

念を導入することは人を驚かせるかもしれない。しかし《ピ9   スタンダールは民族的熱狂に盲目的に身をまかせたのではないの

冨茸冨①毒艮8艮》の言葉、或いはテーヌがO識鵯ざのなかで  富江o昌①一δヨ①が6げ9。・i三。・ヨ①やヨ崔富ユωB①に転化する危険

偉大な観察者の文章として引用し、近くはO°8出゜出避8がやはり   を知っていた。彼は共和主義と祖国に対する熱狂が専制主義のエゴ

§鳴ミ蔑o嵐qミ窓oミ職§ミ〈§魯ミ〉§脳§ミ詠ミ中.、討09一旨  イスムに堕落していく過程をナポレオン没落の過程として描いてい

口韓δづ巴δヨ・、の章で引用しているスタンダ!ルの革命期   る。熱狂的な国民感情を利用することからはじめたナポレオンであ 44ー

ロ讐一§巴δヨ①を述べた文章(竃①ヨoヰo°。①ξZ⇔速蘇89曽℃二)   ったが山Φ昌6寓ωヨoはこの感情を必然的に堕落させブルボンへの

に目を止める時、もはや昌9δづ巴δヨ①の問題を避けて通ることは  道を開いた。スタンダールは痛烈にこれを叩く。しかし厳しい批判

出来ないであろう。=o⇔曙切旨5aの《同①ωσ鉾巴=o諺α、国ω幕.  にもか㌧わらずスタンダ1ルがともすればナシヨナリスムの方向に  :

鎚昌60ω》のエピソードもこの熱狂的な民族感情を裏付ける良  ひかれるところに民族感情の根強さがみられよう。それは彼にとつ

い例であろう。この思想と感情はフランス革命特有のものでありロ  て快く懐し炉ものであった。卜§“§富ミ罎§の一人物は次の様に」

ベスピエールと革命期ナシヨナリストに共通しているが、次の世代  叫んでいる。《2①=o凸津曾oづ8山①醤餅おい圃(…)8ヨ旨①

スタンダールにもかなりはっきりした形で受け継がれ、その根底に  9。一〇臣8諺甘こoづω冨ぎ①曽冨8養・鼠圃田留ρ8一。8罎周…

は共和主義に対する熱狂と旧制度に対する反感がある。《昏ま菰  》δ屋8ω①σp9曽搾さ二ωδωす癖碧冨ヨ跨一臼簿⇔詳㊤oq菰9σ冨’

蝕冨℃9窪δ》の原則によって、ナポレオンが、客観的には侵略戦   8β。陣旨⇔答位゜。①σ卑葺①》(oゲ拶Pψ)

争と見なされているものまで、強力に支持されているのはこの理由    こうした共和主義を守る為に、独裁者ナポレオンを支持せざるを

による。               ・  r .      得ない歴史的条件、更にそれが強烈なナシヨナリスムを背景として

 生涯における感受性の最も鋭く豊かな時にスタ.ンダールはこの民   いる状況の複雑さが一層スタンダールを矛盾多いものにみせている

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が彼の態度は一貫しているのである。スクンダールのヒd8曽   作品の大半が書かれた時期の函民感情の主流となるべきものをナシ

                                                                                                            ヘ  ヘ  ヘ  ヘ  へ

冨註・、ヨoを複雑にしているもう一つの要素としてナポレオン自身   ヨナリスムの変形としてのロマン主義と考えたい。

 の二面性があげられよう。ナポレオンには王政復古を準備する一面  《♂δ日σ巴翁。く8Z戯δべoづ①づ毬h詰お竃・》(国㊦霞矯

と共にフランス革命が生きている箏を認めねばなるまい。少くとも   匂q壇三β。同鼻 6げ碧゜圃)という言葉の意味は深い。歴史的挫折、

                                      へ  う  ヘ  ヘ  へ

社会革命としてのフランス革命には忠実であり、ウィーン会議の正   あるいは民族的挫折と呼び得る。フランス国民のエネルギーが集中   ・

統王朝主義者達をはじめとし、保守派のHには大革命の化身であっ  的に最も見事に発揮された一つの輝かしいドラマがバスティーユの

た。スタンダールの切op9冨苫富ヨ①茄指麹する事によって彼の共   勝利に始まり、ワーテルローの敗北として終る。スタンダールの云

和主義を疑うのは早計である。                  う様に、一っの偉大な国民が王を変えるためでなく、自由の為に戦っ

                                 た崇高な世紀があった。英雄的な熱狂。輝かしい勝利と栄光。それだ

      ㈹          -        「    けにみじめな敗北。b⑲ζミ偽ミの契機となった竃馨ぼ冠①に対す

                                 る恋の挫折とは違う、歴史的な拡がりを持った国民的感情である。

 口曙の①によれば冨8σぎ”讐δ昌巴一ωヨから冨。9ぎ旨一耳霞δ3  ナポレオンの挫折はフランス国民とスタンダールの挫折であった。

 の方向を辿った民族感情は一八一四年を契機としていかなる変貌を   一八一四年以後国際的地位は低下の一途を辿る。露骨な反動政治が 45

見せたか。一八一五年の直後に最も激しかった。7卑」くδ巳①  挫折感を強める。挫折の時間を経てナポレオンは英雄時代の国民的

一葺騨巴目oの存在は注目に値いする。民族の野心はナポレオンと共、 シンボルとして復活する。

 に挫折したがせめて知的優位だけは確保したい、愛国的願望の表現    スクンダ!ルの剛8弓舘江ω旨①の芸術がそこから出発する。発

 であった。政治色の強いロマン主義運動には反動勢力に抵抗する流   想の契機が偉大な歴史的事件である事が芸術の規模を大きくする。・

れもあった。タルチュフは寂ω巳冨ωに当てつけて演じられ、ナポ  ルヵ!チはフランスロマン主義のうちに、英雄時代の消滅を悲しむ

’レオンを懐しむ作品も喜ばれた。二十一年には《Zo昌℃昌o戸bロ同㌣  心と小売商入のようにこせついてしまった現在の代りに大いなる   、

冨巳。お①審Bo旨①BBδo自鼠》の台詞が喝襲された。反英色  情熱の輝かしい規範を求める絶望的慾求を指摘しているが、スタン

は強く、ご十ご年にはサンニマルタン劇場の事件が起きた。スタン  ダールの芸術の一つの鍵は彼自身も告白しているように(国①p曙

ダールはミさ巴ミ摯募題醤§岱でこのoげきくぎδ日oに反抗し  ω旨すa6び昌゜過)8ヨρ琴ωρ直oとσ鎖ωωo器①びo罎㈹①oδ①を対立

たが作品を通じて反英的な調子は否めない。元来革命とナポレオン  させるやりかたにある。その『oヨ負。づoのρ8を構成するのは英雄的な

戦争を契機としたナシヨナリスムはロマン主義と一身同体のもので  諸要素でありo呂鎖づ9ω醤①と諄巴一9。且ωヨ①がその中核を占める。

あったが一八一四年代からスタンダールの死に到るまで、即ち彼の  この英雄的な諸要素をスタンダ!ルはナポレオンに求めた、或いは

                             ’

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         嘱                                                                                                                                \

見出した。スダンダールの人物はナポレオンに酷似する。これはス .・ …淳鴫ロ。、o房6①ぼo昌く壇鉱8紀.出q。象。隣①黛ρ器一げじ㌶o$貯

タンダールのごとき思想と生活を持った人間がロマン主義の欲求に    馳ヨ臼こ…                 、     ・

身を晒す時当然の帰結であった。ナポレオンを核としてスクンダ!   !O①のo艮一〇㎝9q「oμρ島岳u。①馨饗℃〈o冨み億剛一.碧簿o一〇醇

ルの芸術が結晶するとはこの意味に於てである。             h鉱蓄犀冒曾ぴ   一

.                         ’     ーβお=⑦ 虫鷺卿⑦旨6ρ 60巳Bo 一、〇二く旨澱o 巴一巴“鎚① ゜陰o旨

     ラ

     る                                                                                           り

     (                          ・   」酔o巳場鴨国け甑鴇゜ρ仁、ご凶ひま窪90三冒舘゜ロ窃ヨ9俸oげ9黄鴫

ジユリアン.ソレルのナポレオンが夢想の妙象であると同時に行  団㊤鼻、冤露鴇①け『節盆H逸》(9拶唱,§

動の規範として現れたところ皆マン主義の日付がある・   ジユリアンはつぶやく、《冨、①‘一.。一9づけ,一。嵩邑。け欝

冨園゜嘱は議警の時代に・天のナポレオンになる薯試 ・亀餌.塗簿ヨ晋。}.。》ジユリアン之彼等のま昌拶b9.け一.ヨ①は基

みた貧しい天の青年の物語である・その司゜暑弾塁幕は民衆 本的に同じである。この民衆箋鳴するが手を取りA口.つことが出来

の羅幕8伝説の高められたものでありほとんど彼の階級箇、なかったところにジユリアンの悲劇があ泥。    ,、

有のものと云えよう・撃の過程に於て強められた上流社会と金持 ナポレオンは多くの点で民衆を裏切ったが民衆の願望は結臼撃る

に対する反感はやがて次の様な形をとる・《貫選毒§§ 一つの核を必要とした。スタンブールはあ暴の伝説寛覆捉妬

g喜℃(:°)ヨg8§ヨ謬簿翼葺8冨ω8貯ユの翼量 えた。穿鋤℃口『台一ωヨ①はジユリアンの階級に限られていたわけでは’

き三墨β゜£<憂塞℃一巨けしぎ邑゜°翼2護゜§① ない。しかし貧しい階級の馨とそれ籍びつけて描く楚よって

§§Φと》垂なのは二+年前なら俺も・という考秀であ 階級の問題を明確に提示し得た。彼は王政警の愚劣と豪レオン

る。大革命が初めて民衆にこの考えを許し・ナポレオンの競舗か伽  時代の英雄的ロマネスクを対照的に描く事によって、読者を革新の

政蜘がこの意識を強めた。ナポレオンの将軍の多くは彼等の階級か  時代へ誘う。ナポレオンは独裁者ではなく革命と英雄時代のシンポ

ら出た。更にジユリアンと民衆を慰め力づけるのは、コルシカに生  ルとして意識される。スタンダールな語っている。《冨瀦壱固①・

れ貧しく名もない一中尉が自らの力で皇帝となり、ヨーロッパを支  ρ器Z口。B獄o昌。。住くま・,①①⇔圃①囲巴沼篤胃o冨一恥◎貯o醇①づ一鼠

配したという事実であったqジユリアンが立聞きした石工達の会話  αoづ葛露冨ヨ⑨ヨ①負o酵ρ仁、餅qp巳臼。汰。冨一・言一寅①碧①6

はこの民衆の】Wp§8甑旨①の構造を明確に示している。       ω8Q8⊆び卑審臼9轟一ω器ω①N駐o【9。零。,庶「まoo旨艶『旨o冥

 《ーU鋤⇔ω{①富ヨ厨飢①園.螢暮同ρ似囲①σo⇒5位冒①自①圃β昌   一”餌凝蝶a需もδ》(竃傷ヨ◎岸①ゆ ω爵Z彙・B獄o戸 ℃同繰9。o①)ドo

糞鋤嗅ぎ矯自oく①⇔巴魯o窪9①ご鴇留くo⇒鋤坤ぴq曾曾鉱℃,oロ9。暑醤…  閑80qoは零づもρ暮監日oの小説である。この窪⇒B鴇梓冨ヨ①は  r

i◎巳o・・酔忌旨δ曾偶σ{♪冨①8旨一の吟蝉夏①象く.一㌣       スタンダールのものであると共に同時代の民衆σ感情であった。スー

Page 8: Title スタンダールのナポレオン Il respecta un seul …...二づ60δづ色らo駄門p。-8日5二ρα①霞巴辞゜。①雷貯①同9山①閃冨づoρ》、 である。それは結局フランス革命の精神を構成する要素であった切oコ昌碧審・ρ器審日①{貫霞巴。,口づげ$三①

タンダールと民衆とが最も接近し得たのはこの曽葛窓葺ωヨoに、  タンダールの若い時代の思いが籠められたロマネスクな瞬間にロベ、

おいてであった。                   ‘  ール申尉の物語を置いて考えよう。イタリアの美しい伯爵夫人とナ

                                  ポレオン軍の若い申尉の恋、それがフバノブリスの出生と性格の秘密

     ㈲                         を説明する。スタンダールの夢想はきρとこういう方向に向けられ

                                  たであろう。冨07国コHo淵ω①の成立事情としてファルネーゼ家の物

 スタンダールの「二つのZ僧B嵐8の小説化されたものが  語とワーテルローの結びつきに重点をかけることは、重要ではある

90ぎ篭越ミ総であるという印象が強い。我々は既にH琶一〇,  が、しかし先ず第一に蜜Oミ§鳶ミ器とミ、§ミミ物恥ミ〉ミ慧さ§

Z螢B禄oコ,一〇§①鴇①が密接な関係を有し、スタンダ!ルのイデーの   (制作年代はほぼ一年半をへだてている)とのつながりにおいて考

コンテクストを形成している事を知っているが、ここでは特に目立   え、そのロマンの発端をロベール中尉の美しいエピソードに見出す

つイタリアニスムと政治学の問題を取上げたい。ミhミミ遷肋゜の青春   事が自然な思考であろう。そのロマネスクな秘密を持ったファブリ   、

讃歌はト貸O蝕鶏註、§恕に引継がれている。卜§帖§富獄ミ§のブル   スがナポレオン帰還の報を聞いてフランスに駆けつける。《智昌9。

ジ誌ワの世界にあいたスタンダールが、竃①旨o跨①ωで気晴しを試み  69も》餅口昌①び舛后Φ昌一ヨヨo口。。①簿妙旨鋤時o博①一.9。一く自d5蝕oq困o鰯

たとする説も充分うなずける。スタンダール自身、《臼、碧餌冨窪oや  一.o詰①碧 Z9。B融o鋭 一一ぐ£9。一け 旨凪霧8二のo日oGけ。。①9瓜ぴq①9。三 47

αo皿900貯ω餅眉曽ユ①H瓜①6①の審ヨ”ゆ冒o歳①」潟α①ヨ鋤㎞①臼口①ωのρ》   〈O『oo冨ω鼠のロ陰ρo伸腿『oOロの傷ρ門δ⇒θくo誘℃帥ユ9切仲日9僧二のω一》

とバルザックに語っている。これはト貸Oぎミ越ミ亀の冒頭の頁に.  (…)一.曽蝕ωo鎗『詫餅8αq鑓巳げoヨ旨①げδ昌冨二血①09ωo・

関するものであるが、ζ傷ヨoヰ①ωの方に一層適切であろう。   B9°。①旨訟昌θ9誹8ρ器一①眉‘一ωo諏廿♪一ρω90馬。。山①日o昌

ミ§§蕊のうらでも特にト貸Q瀞ミ§§器に親近性を示す章はミ  富量ω訂器゜H一く9ヒ昇”o器ユoロコ①『口昌①窓けユo。二一9。一旨①ヨ8

ラノを取扱った第七章であろう。この章は冒O勘ミ、鳶ミ器のロマ  o昌9ρ》(6ゴ昌δ)富曇ミ題の有名な隼の飛翔に比較される文

ンの発端をなす閑oσΦ齢中尉のエピソードから初まる。美しい伯爵   章である。彼等の夢がナポレオンの翼に乗って大空高く輪を描く。 ,’

夫人邸に宿舎を割当られるところから給仕に一枚しかない六フラン  竃9碧のω帥゜ここに彼等の行動の契機がある。スタンダールの小説は  亀

銀貨を握らせる点にいたるまで話の骨組は全く同じである。《ω一  ここから始まる。ファブリスをロマネスクに誘う穿も9。H江のBoに

同①ωζ一冨づ巴。。響&Φ9皆β。。良①自げ2ω一゜ωB①L①ω9h§①鴇博碧鳩お  は祖国愛と肉身の思いが結びついていた。こうしてファブリスはワ

傘p。δ暮{o」ωα①σQ⇔げΦξ・簿6簿偉9。酢α.貯8のω①。o篤貯舞甘ωρ口、餅  ーテルロに赴く。それとは知らず今は将軍となったロベールに出会

冨怨冨冨江8・、門9あ鉱B9。δ気冨導ロ繊ρμ①(…)・Oo7酔一〇  う。スタンダ!ルは功妙である。ファブリスはこの将軍に馬を取ら

℃言ω冨磐日oヨo艮山、二潟σo濠す、昌①器①・》(6財琶゜、刈)このス  れ「泥棒!泥棒!」と叫んで戦場を走る。

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 ミラノ入場、グ旦の漫画、国ρ長ω云々の教育論これ等冒Ω冨博疑ω㊦  呼雷詫①露コ8℃器餅亦負貯①博ぎ69旨雅。,餌賃ヨ8号℃(・.・)9

の興味ある≠ピソ!ドもすでにζ傷旨o胃o。。に書かれている。     ①×豆5幕。。励 ω。亘5ヨ8θ①昌 囁註。 窟H 一①=H 。880尉6目ロμ雷

 ホメロスの最も美しい歌と比較される冒頭の頁の叙事詩的性格の  蜜Q6窪碧〇一゜》 (魯巷二)このZ昌oぶ8の性格はスタンダ!ル 2

理解には窪冨窓aωヨoからのアプローチが有効であろう。それ  が繰返し描いた主人公の性格.に共通した基本的なものとなってい

はフランス革命軍の詩であり、十七才の龍騎兵少尉スタンダールが   る。翻くぎぴq鵠o箋oがO旨”を《>8旨き窪o≦9冨携9ご自8

初めてイタリアの空気に触れた時の感激の思いが範められている。  夢①Z省908甘嶺ぎ臼豆oぼ冨鴇8巴同①巨δpの》と評している

最も完全で理想的な青春の観念とイマージユが描かれている。一つ  がスタンダール人物の本質をつく言葉であろう。個人的関係に関す

の民族が同じ体験に身を委ね、しかもそれが幸福な体験であるのは   る限りスタンダールのナポレオン支持は絶対である。ナポレオンを

素晴しい。この幸福は彼等が共通した確信を持ち同じ熱狂に躊躇な   タイラントと評する時でも《Og隻ξ冨戸隻①ω9梓。。も窪2門・》

<身を委し得たことによる。歴史がこの幸福を許すことは稀であ  ~と云ゲている。後にテーヌが最上の讃辞としてこの言葉をスタンダ  ・

る。フランス革命期ナシヨナリスムの特色であった。        !ルに捧げるであろう。、        、

  スタンダールの岸巴冨巳゜。日①の出発点をここに求めよう。スタ   オレンジの茂っている国に対する憧れと《甘巴∬ω冨μ酢。偉δ

 ンダ!ルはナポレオン自身の性格にイタリア的要素を強調してい  α①ω偶ρ㎝q犀鎮δ⇔》という自覚はナポレオンに対する憧れと共に幼 48

る。峯偽魯〉ミ鷺嵩§の結論は一言でいえばナポオレンは十九世紀  時からのものであった。この二つはイタリア戦役を契機として結び

.のタイラントであるという事である。これをよく理解するには十四   つき、・あの熱狂的な青春時代に成長した。ナポレオンはイタリフの・

世紀のイタリアのタイラントを知らねばならぬとつけ加えるのであ   シンボルとなる。イタリアはそれに相応しい国で゜あった。  -

!るがこの考えは竃価日o旨①g。の方で更に展開される。          スタンダ!ルはナポレオンを申世或いはルネッサンス期のイタリ

 《ω⇔一毒艮ヨ9・8昌o需o⊆〈。傷”帥葛一〇嬉①鍵。幾8島冨号   アめタイラZト、庸兵隊長、小君主達と比較しているがこの考えは

Z我る尿o⇔ρ8冒胃旨陣冨のらo達魯ミミ帖①二①の冨江冨胃一コ6$紆   既にスタール夫人が指摘し、テ!ヌに受継がれる。。械㎡ご麟鼻仙の

一.堰B

テ駕09窪H冨同δ…(…)国oヨヨoの弾冨紹oω・づ8B一昌ε目。δ巳ω  問題は別としてここではナポレオンと中世の君主、ナポレオン時代

量ξ3曾巴゜・§ω9・三・①づ§£憲器巳貫言9 と中世を尋げ馨・!いう要素を加え.て結愈考方法が

壁60づ窪巴話\巴ω四暮ω餌昌の8のω①山①⇔o自く$⊆図肩o凶曾”餅B⑦ω霞o  冒Oミ註越§恥の構成を決定づける要因であった事を指摘するにと

OG①一①肖8『言昌①飴才ρ帥洋①葺一δ餅ω9。一ω貯一①ω9バ8昌の㌶づ6①ω缶  どめたい。

ま8曼景警器欝幕お・げω曾・§霧鶏遠ぎ・…》暑・・ 壁§は《国暮皇一帥俸∩門菖曽勺司ヨ6①ヨ&①H・。し①『。旨餌器のρ二。

ほH°喜゜ω器いω9口ω昌゜0皆δ呂け8が5旨8審。冨鴇6冨蹄「 竃餌9冨く①鳳6ユバ9。5。。.帥一く一くρ溶げ曽β⇒乙。一、H鼠P①帥二賂,ω彫。一①,》

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と書いているが卓見であろう。君主論はスタンダールの愛読書であ  対していかに弱いかをスタンダールはナポレオンの実例によって知

った。マキャベリーは一般に誤解されている。彼は権謀術策を主張   った。ナポレオンが才能と気骨ある人士を退け、阿艘追従の廷臣に取

すると共に、幸運の女神は無鉄砲な若者に味方する、と書く一面が  まかれる事によって自滅した事をスタンダールは絶えず強調する。

あった。又民衆の力を高く評価し、君主国より共和国の優位をほの  . 専制政治の象徴は警察と宮廷である。男。琶ぽの名で示される恐

めかす民主的な思想を持ち熱烈な愛国者であった。これだけの特色   怖政治の原理を、我々は園9。器帥の警察と頃鶏9ω①の塔に見るで

を具えたものとしてスタンダールのマキャベリスムは理解されねば  あろう。ナポレオンのジャコバンに対する恐怖と国ヨ①曾週のぞ

ならない。中世イタリアの歴史も多くの場合マキャベリーによって  れを比較するのは無理であろうか。太公も戦場では勇猛な将軍であ

知った。スタンダールのナポレオンは君主論に描かれた理想の君主   ったが、ジャコバンの名を聞くと幼児のように震え上る。この恐怖

に近い一面を持っている。ところがスタンダールの思想には独裁制   は専制君主の傲慢に対する心地よい報酬である。,

は必ず堕落し崩壊するという確信があり、結局君主としては否定的    精神の自由と活気が失われ、偽善と虚栄の空しい華かさに満ちた   ’

にとらえる事になる。この一見矛盾とみられるものの萌芽は既に君  太公の宮廷のアンニュイを、スタンダールは既にナポレオンの宮廷、

主論にあった。                  ,     に見出していた。彼はナポレオンの皇帝としての生活を《剛斡ooB肇

 一般にト“O瀞亀ミ註ミ恥恥がマキャベリックな小説であると云う時  臼①ひ亀部〈①》と評している。                 49

それが専制政治を極めて典型的に描き出していることを指摘してい   専制政治の恐怖は、すべてが一人の君主の恣意にか\っているこ

るが、ここでも§§ミ鳶物肋ミ〉ミ慧隷§とトoOぎ隷「§紹は連結  とにある。人民の生命は彼の掌中にあり、危険は権力の近くにいる者

している。スタンダールは《絢.鉱富圏δ冒ぎ8匹.昌減ω冨60霞゜。  ほど大きい。竃oω6帥の哲学は生きぬく事が最大の問題である時代に

自①ω巴纂,99拭℃ρδ一冨σ坤巴ω①コρ漏①5G① 。。o昌oo昌お=》   生きたスタンダールのマキャベリスムを反映している。(彼もまたナ

([

@θ紳『①go 餅 囲置一N鋤6)と書いているが、この見落されがちな言葉は重  ポレオンと共に没落したナポレオン軍の熱狂的な勇士であった。)

要である。これはスタンダールのナポレオン論とト◎○ぎ導§器を   太公が悪人として描かれず、本来善人なのだが…と強調されてい

比較研究することによってかなりの程度実証され得る。       るのは注目すべきである。これは君主の地位と環境が人間を変化さ

 スタンダールはナポレオン敗北の原因を次の二つに要約してい  せるのであって、彼が独裁者の性格をもって生れたのではないとい

る。(一)じ、僧旨o轟ρξ一げく巴酔罵一ω宕=周一①ωαqΦ昌ωヨ価旺8『①9α①噂二δ   う主張に基く。ナポレオンにしろ国ヨo巽宅にしろ、その墜落は

ωo⇒。8「8⇒①ヨ①9℃(甚冨同曾巳o昌曾冨窪臼ユ.①ヨ冨冨亀餅8憲鮎o  個入的でなくαoω冨ユ。・醤oの制度に固有のものであることを強調

㈹ぼ倫9①⇒6ゲ臥・最初の理由は専制的な権力が個人にもたらす堕   すとことによってα①殺6笥のヨ①批評はいっそう力を強める。

落である。権力と共に彼を取まく阿農が知性を曇らせ、人間がそれに    ナポレオン挫折の第二の理由はナポレオンがはじめて亘大な宮僚

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.制を中心に持つ近代的姦治機構と、福人の能力にすべてをおう スタン案ルは単に懸したのではなく民衆に多くの美点を見出し

独裁という旧式な方法との矛盾をついている。これは+六世紀の入 汚稼い樗りにエネルギーを有する轟卒直で愛国的な墜の階

マキャベリーも知り得ず蜜Oぎ註這ミ総にも導入されない要素で   級として共感を抱いている。これを理解しないと彼の小説に多くの

ある。パルムという小国を選んだのは秀れたやり方ではあったが、  民衆が非常に好意的に愛情をもって描れている説明が出来ない。ス

一っの犠牲を強制した。            ’       -タンダールの民衆的曽昌9℃ゆa・。ヨ。につながる側面である。

 スタンダ!ルは体験として留げマΩ9匹で国ぎ8を学び、イ   だがスタンダールが貴族趣味を持っていた事も疑えない。前向き

デーとしてナポレオン論で展開した。一一つのナポレオンは   の思想と後向きの趣味、頭と心情の背反はスタンゲールの一つの限

曽⇒ρ冨且ωヨ①を中心に結晶した青春讃歌と密ωB江。。旨①研究の  界である。自ら指摘する様にこれは彼の属する階級と教育に帰せら

書であった。そのより高度な芸術的表現が冒9自ミ§亀である。  れるものである。スタンダールはこの象。。一瞬ω6。艮H⇔臼9。一『①のを

現実の基盤と・このような準備があってこそ偉大な傑作が生れたの  自己の欠点と意識し、小説においても度々問題にしているが儲局解

ではなかろうか。                      決していない。

                                 この分裂はアメリカ共和制を考える時にも現われてくる。この場合

     ㈲                     .     にも彼は共和制に移行する歴史的必然とその思想としての正しさを  50

スタンダ↓の進歩的籍は彼の曽景博葺・にかなり明確充分認めつつも反挑している。彼がワシントンよりもタレ巨フンを

蓮れてい嘉最後に彼の政治思想に忌の方向を争・てお謎購灘鐸で継纏樗羅籟鰻鞭鷺鷲欝

鰍罷ホ曙響姦灘鍵噂簸蒲騨鯵蘇弾擁棚裂㌍蟻簸観

制に対する否定的態度・ωの例としてぎ・島艶匿のω・準期待が舞に縢踊られ、彼の懸する。フルジ.ワジ齢歴史の主噂

》昏等院のジ・コバンに関する記述がよく引用される。民衆を支 権を確立し蒔、ア・リヵの。フルジ.ワと衆愚政治力我慢なら奈

持するが・その卑俗と不遷耐えられないという主張も幾度かものとして強く意識され花(そこでアンまア↓として想起され

繰返されている・しかし民衆の欠点を見出し慧しつつも、彼は るのはやはりナポレオンであった。)

民衆の名においてその幸福を追求し、民衆の幸福の為にはいか    ジャコバンに我慢ならないと云った時ジャコビニスムを否定した

なる事も辞さないことを明言しているのであって、ここから のではないように、ア・リヵを嫌悪する時、共和制とそれ箇有の

デモクラシーに対する嫌悪を導き出すことは出来ない。しかも  美徳を否定したのではない、彼は歴史の未来を信頼したが、明確な

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未来図を描き得なかった。彼の階級と生きた時代の限界であろう。   オン軍の兵士であった…。こうして最初から革命と結びついたロマ

だが根本において、少くとも思想的には、ジャコバン的な民衆を支   ネスクな形成のされ方は、後にナポレオンの専制主義が激しい非難

持し、共和制を支持していた。                   に晒されるとはいえ、切◎づ9℃費菖ω旨①の構造に決定的に作用した。〆

 スタンダールは歴史の進歩に従って三つの政治形態を考えた。    この切8僧窓博冨ヨ①の形成は敗北を経て歴史的民族的挫折感が

(O、°<噛①良①7【9筍○一σO昌゜Oげ9b°Qoα)ナポレオンのそれは第二段階の最   支配したロマン主義の時代に完成した。この事情がそのロマネスク

上のものと考える。もちろん第三の言論出版の自由に支えられた代   な性格と英雄的な時代への回帰の傾陶を一層強めた。

表制民主主義が理想であり、ナポレオンを支持したのは与えられた    スタンダールのナポレオン批判はナポレオンの野心が専制主義の

歴史的条件の中で許された最良のものとしてである。スタンダ!ル  形をとり共和国の没落をまねいた点に向けられる。この批判は強烈

                          ヘ  へ

の歴史観の根底には革命時代の指導者達の思想を受継いだ進歩の確   である。従ってナポレオンの二面性は彼を独裁者とその厭うべき諸

信がある。彼の共和主義思想はこの進歩の確信に支えられて強靱に   属性のシンボルとする可能性もあったが、ナショナリスムとロマン

なる。《冷o嬬o冨ρ口①。。二僧ヨ巴ω二自①忌①艮ω曾δ員曾ρ賃、出く窪一=o  主義の欲求がそれを許さなかった。挫折の時間を経てナポレオンに

H勘ωo昌曾鵠のo旨ま響三一〇巴P》と主張したスタンダールにとって   まつわる輝かしい思い出は一層身近く鮮明に意識される。民衆のナ

共和主義を選ぶことは必然であり誠実ざの問題でさえあった。  ・ ポレオン伝説が生れスタンダールはそれに近ずく。同じ偉大な歴史 51

                                的体験を経、共に戦い共に没落したスタンダールにしてみれば、こ

     (結び)         れは当然な成行であつた・      ’ ー

 スタンダールの曽葛冒註ω旨①の構造の外枠をなすものは一七   曽ρ9℃”目謡ωヨ①が過去の栄光への憧憬を基本としている事は変ら

八三~一八四ご年の日附である。同じ日附を持った世代の中で  ない。しかしスタンダールの生涯とその時代の特殊性は彼の

も典型的な生涯であった。跡6900①ロ窪巴oで学び旨80甑守  窪巷pH江①ヨ①に特殊な構造を与えた。次の三点を認める事が必要

口舞凶oロ巴冨Boからロマン主義に到る激しい民族感情のただ中で生   である。ωフランス革命につながる革新的性格。ω犀鎖自β。づ一。励巳。

きた。この動乱と激情の時代にあって彼の思想と感情はナポレオン   につながるロマネスク。㈲民族感情とつながる民衆的性格。

という核を申心籍晶する方向を辿った.     (註)      (一ゆα..切.)

 スタンダールの曽口9冨ヨ、旨oは専制君主達の攻撃から祖国を     ωマルクス主義の定義を除いてまだ聖昌巷曽¢°自ヨ①には明確

守る愛国者,若き将軍ボナパルトに対する少年の憧憬から出発する。   な定義が与えられていないらしい。ここでは「ナポレオンの行動

ロンバルディアの沃野に解放の喜びをもたらすイタリア戦役の将軍    (政治、軍事、私的卑o°)と人聞性に対する共感、好意を含ん

ナポレオン。スタンダールはあの熱狂的なイタリアにおいてナポレ   だ態度」と定義しておく。