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フェルミ・ガンマ線衛星でみる宇宙 フェルミ衛星は2008611日に打ち上げられて以来3年、全天のサーベイ観測を継 続中です。20117月には2年目カタログが公開され、2年間の観測で検出された天体 の数(100MeV->100GeVのエネルギーを持つガンマ線点源)は、1873となりました。各種 天体カタログとの比較により、同定が行われているが、約600の天体が、未同定天体で した。現在、取得されたデータは逐次公開されており、フェルミチームからは多くの論文 が発表されています。フェルミ衛星ではガンマ線だけではなく他波長との連携も行われ ており、高エネルギー天文学を牽引する衛星となっています。 <参考> Fermi-LAT Collaboration 2011, arXiv:1108.143/ 2軌道周回中のフェルミ 衛星の想像図。 研究内容 最高エネルギー宇宙線源候補天体の観測的研究 (M1福田) ガンマ線とはガンマ線は、最も波長の短い電磁波、つまりもっともエネルギーの高い光子です(1)。特に 100MeV以上100GeV以下の領域の高エネルギーガンマ線は、荷電粒子が非常に高いエネルギーま で加速されていることを示しており、これを観測することで宇宙で起きている高エネルギー現象を知 ることができます。しかし、このようなエネルギーのガンマ線は地球大気により吸収されるため、地上 で直接検出することは難しく、主に人工衛星による観測が行われています。 茨城大学 高エネルギー宇宙物理グループ フェルミ衛星によるガンマ線観測 超新星残骸 パルサー 活動銀河核 ガンマ線バースト 宇宙線の起源 ()3フェルミ衛星の2 年間 の観測で得られた、エ ネルギーE > 1GeVのガ ンマ線強度分布を表し た、全天でのマップ。 銀河中心部が黄色 ~赤になっており、ガ ンマ線の強度が高く なっています。 中心部以外でもガ ンマ線源が多数あるこ とがわかります。 6:フェルミ衛星で観測された1873のガンマ 線源。それぞれの点(ガンマ線源)から3.1° の円を考えます。 8:黄色の+が最高エネルギー宇宙線の到来方向を示してい ます。黄緑の円は最高エネルギー宇宙線を2個以上含んでいる ガンマ線源(フェルミソース)を3.1°の円で示したものです。 これらのガンマ線源のうち、 既に詳細な研究がされてい Centaurus A近傍の領域を 除外したところ、新たに5(715)の最高エネル ギー宇宙線を加速している 候補となる天体を見つけまし た今後はこれらの天体につ いてどのような特性を持つか、 電波によるフォローアップ観 測も加えて詳細な解析を 行っていく予定です。 7:黒が最高エネルギー宇宙線到来方向。 青は近傍AGNのカタログですが、今回は無視し ます。 1 3 2 4 5 LAT (Large Area Telescope) 20 MeV ― > 300 GeV 視野 2.4 str 3時間ごとに全天を走査 GBM (Gamma-ray Burst Monitor) 8 keV ―> 30 MeV 主に突発天体を監視 検出器:NaI(Tl) x 12 + BGO x2 カロリメータ CsI(Tl)シンチレータ 電子対のエネルギーを測定 ガンマ線のエネルギーを再構成 トラッカー 多重シリコンストリップ検出器 電子対の飛跡を測定 ガンマ線の到来方向を再構成 反同時計数シールド プラスチックシンチレータ 荷電粒子バックグラウンドの除去 搭載検出器 フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡 フェルミ・ガンマ線望遠鏡(通称フェルミ衛星:図2)は、日米欧 の国 際協力により開発されたガンマ線天文衛星です。ガンマ 線検出器として、Large Area Telescope(LAT)GLAST Burst Monitor(GBM)を搭載しており、LATでは20MeV-300GeVのエネ ルギー領域をこれまでで最高の感度で観測することを実現し ています。一方GBMでは8keV-30 MeVのエネルギー領域で、 主に突発的現象を観測しています。(詳細は右図) 観測対象となる天体は、パルサー・活動銀河核・ガンマ線 バースト・超新星残骸など多岐にわたっており、高エネルギー 現象(巨大ブラックホールが出すジェット流,ガンマ線バースト 現象等)の解明や宇宙線の起源の解明等さまざまな成果を期 待されている衛星です。 波長[m] ガンマ線 X紫外線 可視光 赤外線 マイクロ波 電波 1MeV 1keV エネルギー フェルミ衛星による「白鳥座ループ」の観測 (片桐) 5 フェルミ衛星で取得した超新星残 骸「はくちょう座ループ」から放射され るガンマ線の撮像イメージ。 緑の等高線は、(左図)超新星爆発の 衝撃波がガス中を通過する際に放射 される光(輝線)(右図)一酸化炭素 の分子線で、比較的密度の高い分子 ガスの位置を示しています。右下の差 し込み図は、ガンマ線の角度分解能を 示しています。 宇宙空間には、宇宙線という非常にエネルギーの高い粒子が存在しています。そ のような粒子の一部は、超新星爆発という星が死を迎える時に引き起こす大爆発の エネルギーによって生成されています。生成された粒子は周囲のガスなどと反応して 高エネルギーガンマ線を発生させており、フェルミ衛星によってそのようなガンマ線源 がいくつか見つかってきました。ところが、それらのガンマ線のスペクトル(エネルギー 分布)をよく見ると、奇妙な折れ曲がりがあることが分かってきました(4)その折れ曲がりは、生成された宇宙線が時と共に爆発波から抜け出して拡散してい く効果によって作られたという説(拡散説)などがありますが、諸説あり、まだはっきりし ていません。折れ曲がりの起源を明らかにするには、ガンマ線の空間分布が役に立 ちます。 本研究ではフェルミ衛星のデータを用いて「はくちょう座ループ」と呼ばれる超新星 残骸に着目しました(5)。「はくちょう座ループ」は見た目の大きさが約3(月の約6 )もあり、ガンマ線を放射する超新星残骸の中では最も大きいため、詳細な空間分 布を議論するのに適しています。データを詳細に解析した結果、「はくちょう座ルー プ」では、スペクトルの折れ曲がりは拡散説では難しいことが分かりました。 3° 4 超新星残骸「はくちょう座ループ」から 放射されるガンマ線のスペクトル。 グラフの点に付いている縦軸はエネルギー 流量の誤差(赤:統計誤差、黒:系統誤差)横軸は解析に使用したエネルギー範囲を 示す。赤い矢印は、有意な信号が得られな かった点で、エネルギー流量の上限値を示 す。青い線に囲まれた領域は、スペクトル の形状としてログパラボラを仮定した場合 に最もよく適合する形状から68%の信頼水 準に含まれる領域。 <参考>Katagiri et al.2011,ApJ,741,44K 1:電磁波の種類と波長、エネルギー(10 6 =1MeV,10 3 eV=1keV宇宙線がどのような天体で加速されているかという「宇宙線の起源問題」は未だ明 らかになっていない問題の1つです。宇宙線は荷電粒子なので通常、星間磁場によっ て飛跡が曲がってしまい、到来方向を特定することが難しいですが、 10 18 eV 以上の エネルギーをもつ最高エネルギー宇宙線は、磁場による回転運動の曲率半径が非 常に大きく、到来方向の情報をある程度保ったまま地球に到来すると考えられていま す。この最高エネルギー宇宙線をかつてない高精度と高感度で観測している南オー ジェ観測所での観測結果より、宇宙線と近傍の活動銀河核の空間的な相関があるこ とが示唆されています。最高エネルギー宇宙線が加速されるような領域では、大規模 な粒子加速が起こっており、周囲の物質・場との相互作用で非熱的な電磁波を発生 すると考えれます。そのため、高エネルギーガンマ線の観測は、高エネルギー粒子の 加速が起こっている直接的な証拠となります。 本研究では、フェルミ衛星の2年間の観測をもとにしたガンマ線カタログと宇宙線の 相関を求めました(6.7)。その結果、複数の最高エネルギー宇宙線の到来方向と空 間的に相関があるガンマ線源があることがわかりました。(8)10 -12 10 -8 10 -6 10 -4 10 -1

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Page 1: PowerPoint プレゼンテーションgolf.sci.ibaraki.ac.jp/backup20150325/h_bar_fes/fermi_h...Title PowerPoint プレゼンテーション Author arisa Created Date 10/20/2011 2:25:36

フェルミ・ガンマ線衛星でみる宇宙

フェルミ衛星は2008年6月11日に打ち上げられて以来3年、全天のサーベイ観測を継続中です。2011年7月には2年目カタログが公開され、2年間の観測で検出された天体の数(100MeV->100GeVのエネルギーを持つガンマ線点源)は、1873となりました。各種天体カタログとの比較により、同定が行われているが、約600の天体が、未同定天体で

した。現在、取得されたデータは逐次公開されており、フェルミチームからは多くの論文が発表されています。フェルミ衛星ではガンマ線だけではなく他波長との連携も行われており、高エネルギー天文学を牽引する衛星となっています。

<参考> Fermi-LAT Collaboration 2011, arXiv:1108.143/

図2:

軌道周回中のフェルミ衛星の想像図。

研究内容 最高エネルギー宇宙線源候補天体の観測的研究 (M1福田)

ガンマ線とは… ガンマ線は、最も波長の短い電磁波、つまりもっともエネルギーの高い光子です(図1)。特に100MeV以上100GeV以下の領域の高エネルギーガンマ線は、荷電粒子が非常に高いエネルギーま

で加速されていることを示しており、これを観測することで宇宙で起きている高エネルギー現象を知ることができます。しかし、このようなエネルギーのガンマ線は地球大気により吸収されるため、地上で直接検出することは難しく、主に人工衛星による観測が行われています。

茨城大学 高エネルギー宇宙物理グループ

フェルミ衛星によるガンマ線観測

超新星残骸 パルサー 活動銀河核 ガンマ線バースト 宇宙線の起源

(右)図3: フェルミ衛星の2年間

の観測で得られた、エネルギーE > 1GeVのガ

ンマ線強度分布を表した、全天でのマップ。

銀河中心部が黄色~赤になっており、ガンマ線の強度が高くなっています。

中心部以外でもガ

ンマ線源が多数あることがわかります。

図6:フェルミ衛星で観測された1873のガンマ線源。それぞれの点(ガンマ線源)から3.1°の円を考えます。

図8:黄色の+が最高エネルギー宇宙線の到来方向を示しています。黄緑の円は最高エネルギー宇宙線を2個以上含んでいるガンマ線源(フェルミソース)を3.1°の円で示したものです。

これらのガンマ線源のうち、既に詳細な研究がされているCentaurus A近傍の領域を除外したところ、新たに5個(図7の1~5)の最高エネル

ギー宇宙線を加速している候補となる天体を見つけました今後はこれらの天体についてどのような特性を持つか、電波によるフォローアップ観測も加えて詳細な解析を行っていく予定です。

図 7:黒が最高エネルギー宇宙線到来方向。青は近傍AGNのカタログですが、今回は無視します。

1

3

2

4

5

LAT (Large Area Telescope) • 20 MeV ― > 300 GeV • 視野 2.4 str • 約3時間ごとに全天を走査

GBM

(Gamma-ray Burst Monitor) • 8 keV ―> 30 MeV • 主に突発天体を監視

• 検出器:NaI(Tl) x 12 + BGO x2

カロリメータ CsI(Tl)シンチレータ

電子対のエネルギーを測定

ガンマ線のエネルギーを再構成

トラッカー

多重シリコンストリップ検出器

電子対の飛跡を測定

ガンマ線の到来方向を再構成

反同時計数シールド

プラスチックシンチレータ

荷電粒子バックグラウンドの除去

搭載検出器 フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡 フェルミ・ガンマ線望遠鏡(通称フェルミ衛星:図2)は、日米欧の国 際協力により開発されたガンマ線天文衛星です。ガンマ線検出器として、Large Area Telescope(LAT)とGLAST Burst Monitor(GBM)を搭載しており、LATでは20MeV-300GeVのエネ

ルギー領域をこれまでで最高の感度で観測することを実現しています。一方GBMでは8keV-30 MeVのエネルギー領域で、主に突発的現象を観測しています。(詳細は右図)

観測対象となる天体は、パルサー・活動銀河核・ガンマ線バースト・超新星残骸など多岐にわたっており、高エネルギー現象(巨大ブラックホールが出すジェット流,ガンマ線バースト現象等)の解明や宇宙線の起源の解明等さまざまな成果を期待されている衛星です。

波長[m]

ガンマ線 X線 紫外線

可視光

赤外線 マイクロ波 電波

1MeV 1keV エネルギー

フェルミ衛星による「白鳥座ループ」の観測 (片桐)

図5 フェルミ衛星で取得した超新星残

骸「はくちょう座ループ」から放射されるガンマ線の撮像イメージ。

緑の等高線は、(左図)超新星爆発の

衝撃波がガス中を通過する際に放射される光(Hα輝線)。(右図)一酸化炭素

の分子線で、比較的密度の高い分子ガスの位置を示しています。右下の差し込み図は、ガンマ線の角度分解能を示しています。

宇宙空間には、宇宙線という非常にエネルギーの高い粒子が存在しています。そのような粒子の一部は、超新星爆発という星が死を迎える時に引き起こす大爆発のエネルギーによって生成されています。生成された粒子は周囲のガスなどと反応して高エネルギーガンマ線を発生させており、フェルミ衛星によってそのようなガンマ線源がいくつか見つかってきました。ところが、それらのガンマ線のスペクトル(エネルギー分布)をよく見ると、奇妙な折れ曲がりがあることが分かってきました(図4)。

その折れ曲がりは、生成された宇宙線が時と共に爆発波から抜け出して拡散していく効果によって作られたという説(拡散説)などがありますが、諸説あり、まだはっきりしていません。折れ曲がりの起源を明らかにするには、ガンマ線の空間分布が役に立ちます。

本研究ではフェルミ衛星のデータを用いて「はくちょう座ループ」と呼ばれる超新星残骸に着目しました(図5)。「はくちょう座ループ」は見た目の大きさが約3度(月の約6倍)もあり、ガンマ線を放射する超新星残骸の中では最も大きいため、詳細な空間分布を議論するのに適しています。データを詳細に解析した結果、「はくちょう座ループ」では、スペクトルの折れ曲がりは拡散説では難しいことが分かりました。

図4 超新星残骸「はくちょう座ループ」から放射されるガンマ線のスペクトル。

グラフの点に付いている縦軸はエネルギー流量の誤差(赤:統計誤差、黒:系統誤差)、

横軸は解析に使用したエネルギー範囲を示す。赤い矢印は、有意な信号が得られなかった点で、エネルギー流量の上限値を示す。青い線に囲まれた領域は、スペクトルの形状としてログパラボラを仮定した場合に最もよく適合する形状から68%の信頼水準に含まれる領域。

<参考>Katagiri et al.2011,ApJ,741,44K

図1:電磁波の種類と波長、エネルギー(106=1MeV,103eV=1keV)

宇宙線がどのような天体で加速されているかという「宇宙線の起源問題」は未だ明らかになっていない問題の1つです。宇宙線は荷電粒子なので通常、星間磁場によって飛跡が曲がってしまい、到来方向を特定することが難しいですが、 1018eV 以上の

エネルギーをもつ最高エネルギー宇宙線は、磁場による回転運動の曲率半径が非常に大きく、到来方向の情報をある程度保ったまま地球に到来すると考えられています。この最高エネルギー宇宙線をかつてない高精度と高感度で観測している南オージェ観測所での観測結果より、宇宙線と近傍の活動銀河核の空間的な相関があることが示唆されています。最高エネルギー宇宙線が加速されるような領域では、大規模な粒子加速が起こっており、周囲の物質・場との相互作用で非熱的な電磁波を発生すると考えれます。そのため、高エネルギーガンマ線の観測は、高エネルギー粒子の加速が起こっている直接的な証拠となります。 本研究では、フェルミ衛星の2年間の観測をもとにしたガンマ線カタログと宇宙線の相関を求めました(図6.7)。その結果、複数の最高エネルギー宇宙線の到来方向と空間的に相関があるガンマ線源があることがわかりました。(図8)。

10-12 10-8 10-6 10-4 10-1