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日皮会誌:92 (2), 115-120, 1982 (昭57)
小児Generalized eruptive histiocytoma の1例
麻生和雄 近藤慈夫
要 旨
4歳,男児.掌跳,頚部を除く全身に米粒大の黄赤褐
色の丘疹が多発し,組織学的には表皮直下における組織
球の浸潤であり,泡沫細胞および巨細胞を認めず,脂肪
染色陰性であった.諸検査で特に異常を認めず又内臓病
変もなかった.皮疹は約2年間の経過観察で自然治癒傾
向を示し,約80%は消極した.本例はWinkelmann及び
Mullerが提唱したGeneralized eruptive histiocytoma
(GEH)に相当すると思われ,報告した.又他の組織
球性疾患との鑑別を行なった.
緒 言
Generalized eruptive histiocytoma(以下GEHと略)
はWinkelmann及びMuller" tiこより1963年初めて記載
された疾患で,広範な部位に多発性小丘疹を認めるが,
自然治癒傾向を示し,病理組織所見で表皮下真皮に組織
球の増殖浸潤を認めることを特徴とする. GEHの報告
例は少なく本邦ではまだ報告をみない.著者らはGEH
と思われる4歳男児例を経験し2年間経過観察した.症
例を報告したい.
症 例
患者:4歳,男児.
初診:昭和54年3月16日.
家族歴:特記すべきことはない.
既往歴:特記すべきことはない.
現病歴:生後6ヵ月頃より躯幹・四肢に米粒大丘疹の
出現をみた.自覚症状なく全身状態にも異常をみないた
め放置していたが,次第に丘疹の数が増加してきたため
当科を受診した.
現症:掌賠および頭部を除く全身に淡黄赤褐色の米粒
山形大学医学部皮膚科学教室(主任 麻生和唯教授)
Kazuo Aso, Shigeo Kondo and Shuichi Watanabe :
A case of generalized eruptive histiocytoma of
childhood.
昭和56年9月29日受理
別刷請求先:( 990―23)山形市蔵王飯田西の前
山形大学医学部皮膚科学教室 麻生 和雄
渡辺修一
大丘疹か多発し,その数は2000個以上におよんでいる.
丘疹は顔面では眼周囲部に散発してみられるが,四肢・
躯幹部ではほぼ均一に分布している.口腔粘膜にも同
様丘疹が数個みとめられた.個疹は扁平あるいは半球状
隆起している.各丘疹の融合は認められない.色調は多
くは黄色調,一部赤褐色である(第1図,第2図).表
在リンパ節および肝肺は触れなト.
検査成績:白血球9200 C梓状16%,分葉30%,好酸球
IX,好塩基球O%,単球5%,リンパ球48%で分画に
異常を認めない),赤血球520万, Hb 14・封/弗血小板
32.4万,総蛋白7.6g/dl, GOT 261U, GPT 7IU, LDH
221IU, Al-P 301IU, 血糖値88mg/dlでいずれも正常域
であった.血中中性脂肪,コレステロール値,リポ蛋
自分画は,表1のごとくである.第1[月目の外来検査で
β-リポ蛋白の上昇があったがくり返した検査結果で異
常はないと結論された.腎機能正常,一般尿検査に異常
なく,尿崩症の合併もない.X線検査で胸部および骨に
異常所見を認めなかった.
病理組織所見:胸部,背部,四肢の皮疹を生検した標
本は,ほぼ同様な所見を示した.主要所見は表皮直下の
真皮の比較的限局した細胞浸潤である.主要な浸潤細胞
は比較的均一の大きさの円形・楕円形細胞で,大型の明
るい核をもち,原形質の豊富な組織球様細胞である.異
型性や核分裂像を認めない.リンパ球が混在し,わずか
に異物型局細胞が認められる場合があったが,泡沫細胞
は見られない(第3図,第4図).
脂肪染色はいずれの部位の標本でも陰性であった.酸
表1 血中コレステロール,中性脂肪.
リポ蛋白分画
54. 4. 4 54. 5. 18
total cholesterol 15L mg/dl 154 mg/dl
triglycerides t30 mg/dl 139 mg/dl
iipoprotein分画
chylomicron 6.6% 7.6%
β-lipoprotein 33.3% 47、3%
pre-β-lipoprofein 40.7% 24.5%
α-lipoprotein 19.4% 20.6%
116
第1図 腹部の皮疹
麻生 和雄ほか
F
●゛
↓1 "・
・*・いに
第3図 組織像(弱拡大).表皮直下にリンパ球を
混じる組織球の浸潤をみる. (H.E.×100)
第5図 組織像.浸潤細胞は酸フォスファターゼ陽
性を示す.(酸フォスファターゼ染色 ×400)
第2図 大腿部の皮疹
第4図 組織像(強拡大).泡沫細胞やTouton型巨
細胞はみられない(H.E.×400)
性フォスファターゼ染色は,浸潤細胞部位で陽性を示し
た(第5図).
電顕所見:腹部,背部,四肢の皮疹を生検し,4%グ
ルクールアルデヒド,2%オスミウム酸固定し,エポソ
包埋した.包埋材料をPorter Blum MX I型ミクロド
ームで90mμ前後の薄切切片とし,酢酸ウラニウム,水
酸化鉛による二重染色後,日立300型電子顕微鏡で観察
した.
真皮上層に中型の[月形あるいは楕円形の比較的均一な
大きさの細胞浸潤が認められる.これらの細胞の原形質
突起は一部樹枝状である.相互の細胞のデスモソーム接
合を認めない.核は1~2の核小体を有し,核膜に切れ
こみがみられる.原形質中には多数の空胞dense body
小児Generalized eruptive histiocytomaの1例
第6図 電顕像:浸潤細胞の主体は大型で切れ込みのある核を有する
組織球性細胞よりなる.(×3,000)
第7図 電顕像:原形質中に多数のdense body やmembrane-bound
を含む(×10,000)
およびmembrane-bound granularbody がみられた.糸
状体,ゴルジ装置,小胞体など比較的豊富である.多く
の浸潤細胞のうちわずか1個の細胞の原形質に数個のラ
ングルハンス穎粒を認めた(第6図,第7図).
経過:初診より2,3ヵ月間は新皮疹の出現がみられ
117
たが,自然消槌するものもあり,1年半後,約80%の皮
疹は,癩痕や色素沈着を残さず自然消槌した.経過中,
肝肺および表在リンパ節は触れず,又他の合併症の発生
もみとめなかった.
経過中,数回にわたり生検を行なったところ,残存す
118 麻生 和雄ほか
る皮疹はいずれも初診時と同様所見を示し, Touton型
巨細胞,泡沫細胞を認めず,脂肪染色も陰性であった.
自然消腿した皮疹部の標本では,細胞浸潤は認められ
ず,正常皮膚と変わりなかった.
考 按
Winkeimann及びMuller"は,(1)広範な部位,と
くに躯幹・四肢に対側性,時に粘膜をおかし, (2)融
合傾向のない赤あるいは青赤色の多発性小丘疹で, (3)
外傷の既往を認めず,(4)自然治癒傾向を示し,時に
消失後に褐色斑を残し, (5)病理組織所見で表皮下真
皮の組織球の良性増殖像の認められるものを^ generali-
zed eruptivehistiocvtoma(GEH)として,若年性黄色
肉芽腫症(juvenile xanthogranuloma. 以下,JXと略),
巨細胞性細網組織球症(giant cell reticulohistiocytoma,
以下GRHと略),播種状黄色腫(xanthoma dissemin-
atum,以下XDと略),多発性組織球腫(multiple his-
tiocytoma,以下MHと略)などから区別される独立性
疾患とした.さらに顔面,躯幹,四肢に0.2~0.5cmの
黄赤色の小丘疹を多発し,自然消梗の傾向を認めた9歳
女児症例を小児GEH (eruptive histiocytoma of child-
hood)として報告している2)・
自験例は4歳男児例で,0)掌礁,頭部を除く躯
幹,四肢に黄赤褐色,ほぼ均一の大きさ(0.2~0.3cm)
の,扁平あるいは半球状の丘疹を多発し,口腔粘膜にも
皮疹をみとめ, (2) 2~3ヵ月の経過中一部新皮疹の
発生をみとめながらも約1年半の経過で80%の皮疹は色
素沈着も残さず消失,(3)その間,リンパ節腫,肝拝
腫などの内臓病変をみとめず, (4)病理組織学的には
表皮下の組織球浸潤で,酸性フォスファターゼ陽性,脂
肪染色陰性であり,小児GEHに臨床的および病理組織
学的に一致する症例と考えられた.電顕所見でも浸潤細
胞は原形質中に多数の空胞dense body あるいはme・
mbrane-bound granular body をみとめCarringtonら3)
やCaputoら4)のいう組織球の特徴をもっと細胞浸潤で
あった.
個々の丘疹の形態,色および自然消失はJXと似る
が,丘疹の汎発性および病理組織所見で浸潤細胞中に
泡沫細胞をみとめず,脂肪染色陰性であることからJX
とは区別された.JXの初期病理組織像は時々泡沫細
胞および巨細胞を欠くというが5),自験例では,初診
時,3ヵ月後および1年後の組織検査で,いずれも泡沫
細胞をみとめず,又脂肪染色も陰性であり,酸性フォス
フアターゼ陽性であった.XDとは皮疹の分布および脂
肪染色陰性で泡沫細胞を認めないことから区別される.
益田ら6)はJXとXDでは発生年齢が主たる鑑別点で,
それが両者の本質的差異となりうるかは今後の問題点
としながらもJXは幼小児,XDは成人に用いられる
疾患名としている.高脂血症による発疹型黄色腫から
はI , IV, V型リポ蛋白に異常がない所から区別されう
る. GRHの全身型とはGRHが皮疹が手指に好発,関
節炎を伴ない,組織学的には細胞質の豊富なスリガラス
様の巨細胞をみとめることから鑑別しうる.生下時よ
り顔面,四肢に小結節を多発,3ヵ月で自然消梗した
症例がHashimotoら7)によってcongenital self-healing
reticulohistiocytoraaとして報告されているが,電顕的に
これら組織球中にはBIrbeck穎粒がみとめられWinkel-
mannら2)はその症例をLangerhans細胞の増殖のみら
れた点で乳児のhistiocytosis x 例と考えるべきである
と述べている. histiocytosis x (以下HXと略)は,
Langerhans系組織球の増殖性疾患と考えられる≒臨床
型としてXD様皮疹のみられることが知られている9≒
自験例では浸潤細胞中にBirbeck穎粒のみられた細胞
は1個のみである. Langerhans細胞は正常の真皮,リ
ンパ節などにもみられる.HXではBirbeck m粒のみ
とめられる浸潤朧胞は全体の20~40%にも達する.臨床
的にも自験例では内臓.骨所見をみとめないことから
HXと区別されよう. histiocytomaが多発性に生ずるこ
とがある.しかし多くの場合結節で,これ.までhistio-
cytomaの多発例として報告された8症例1°)においても
結節数は30~200までである.いずれも自然治癒の傾向
はない. Tauntonら11)のprogressivo nodular histiocyto-
maとして報告された症例は,結節が腫瘍状に隆起し多
発し,結節は消槌傾向なく進行増大するもので,病理組
織学的には脂肪染色陽性の泡沫細胞および巨細胞を症じ
ている.
これまでGEHとして報告された症例は,成人例で
はWinkelmanii及びMullerの3症例1),Pegum12),お
よびSohiら13)の各1例で,小児例では, Caputoら4)の
13歳少女例Winkelmannら2)の9歳少女例および自験
例の計8例である.自験例は皮疹の分布,黄赤褐色,形
態などWinkelinannらの小児例町こ類似している(表
2).
Winkelmann及びMuUer"によれば,これまでmul-
tiple endothelioma"〉, multiple dermatoflbroma"' erup-
tive symmetric eosinophilic granuloma'*', paraxantho-
matous systemic histiocytosis'^'として報告された症例
小児Generalized eruptive histiocytomaの1例
表2 Generalized eruptive histiocytoma
119
年齢 性 部 位 数 合併症
A) Generalized eruptive histiocytoma
1. Winkelmann & Muller (1963) 51 F 躯幹,四肢 100 -
2. Winkelmann & Muller ( /' ) 58 M 躯幹,四肢末端,口腔 2000
3. Winkelmann & Muller ( /.・) 38 F 顔面,躯幹,四肢 1000 -
4. Pegum (1973) 44 M 四肢,躯幹 i ? -
5. Sohi et al・ (1974) 52 M 顔面,躯幹 1000 -
B ) Generalized eruptive histiocytoma of childhood
6. Caputo et a1. (1977) 13 F 頭部,顔面,躯幹,四肢 ? -
7 Winfcelmann et al・ (1980) 9 F 顔面,躯幹,四肢 1000 uveitis,glaucoma
8.著 者 ら (1981) 4 M 顔面,躯幹,四肢,口腔 1000 -
C) Generalized eruptive histiocytoma と考えられるもの
9 Wise (1919) (multiple endothelioraa)
22 M 躯幹,四肢末端 150 -
10 Glauberzon et al. (1952) (multiple dermatofibroma)
34 F?
●200 -
11. Bacaredda-Boy (1960)
(paraxanthomatous systemic histiocytosis)33 M 顔面,躯幹,四肢,口腔 1000
rheumatoidarthritis
12. Herzberg (1961) (eruptive symmetric eosinophilic granuloma)
30 F 躯幹,四肢 1000 -
もGEHと考えられると述べている(表2).
GEHの病態,病因については明らかでない. Altman
及びWinkelmann"はJX, XD, GRHあるいはhistio-
cytomaなどを組織球の異常増殖を共通の基盤とする疾
患群としている.益田ら6)はXDの1例を報告し,同
様の観点から組織球が胞体内に脂肪穎粒をもったものの
文
1) Winkelmann, R.K. & MuUer, S.A.:Generaliz-
ed eruptive histiocytoma, Arch. Derm.b 88:
586-596, 1963.
2) Winkelmann, R.K., Kossard, S. & Fraga, S.:
Eruptive histiocytoma of childhood,Arch.
Derm., 116: 565-570, 1980.
3) Carrington, S.G. & Winkelmann, R.K.: Elec-
tron microscopy of histiocytic diseases of the
skin, Ada j)m
178, 1972.
4) Caputo, R., Crosti, C. & Cainelli, T.: A
unique cytoplasmic structure in papular his‘
tiocytoma, J.inuest.1)CTIH.,68:98-104, 1977.
5) Lever,χ/V.F. & Schaumburg-Lever, G.: Ju-
venile xanthogranuloma, Hi出師thoiog V of the
skin, 5th Ed., Lippincott, Philadelphia, 1975,
pp. 378-379.
成人例がXD,小児例がJXであり, GEHの疾患概念
はJX, XDに近縁のものであろうとした.小児GEH
はとくにJXと共通の基盤を有する疾患群であると著
者らも考えている.
本論文の要旨の一部は昭和55年9月,第231回日本皮
膚科学会東北地方会において報告した.
献
6)益田 勤,小玉 肇,武 誠: Xanthoma
disseminatum,西日皮膚,39 : 725―728, 1977.
7) Hashimoto, K. & Pritzker, M.S.: Electron
microscopic study of reticulohistiocytoma,
Arch.Derm。107: 263-270, 1973.
8) Lever, W.F. & Schaumburg-Lever, G.: His-
tiocytosis, Histopα岳.匈びof the Skin, 5th Ed.,
Lippincott, Philadelphia, 1975, pp. 371-376.
9) Altman, J. & Winkelmann, R.K.: Xan-
thomatous cutaneous lesions of histiocytosis χ,
Arch. Derm., 87: 164-170, 1963.
10) Baraf, C.S. & Shapiro, L.: Multiple histiocy-
tomas, Arch. Dぴ'm., 101: 588-590, 1970.
11) Taunton, O.D., Yeshurum, D. & Jarratt, M.:
Progressive nodular histiocytoma. Arch.Derm.,
114: 1505-1508, 1978.
12) Pegum, J.S.: Generalized eruptive histiocy-
120 麻生 和雄ほか
toma,?roc. f'り.Soc. Mec£,66: 1175-1176, 1973.
13) Sohi, A.S., Tiwari, V.D., Subramanian, C.S.V.
& Chakraborty, M.: Generalized eruptive
histiocytoma, Dermatol∂<gka, 159: 471-475,
1979.
14) Wise, F.: Multiple endothelioma of the skin.
Am・J・.Med. Sci・, 157: 236-253, 1919・
15) Glauberzon, S.A. & Lebedeff, A.Y.: Multiple
plane dermatofibroma, Vesth. Ve.タler.£)erm.1:
53-54, 1951―Exerhfa Med. sec. XIII, 6: 68,
1953より引用.
16) Her2berg,J・J・: Eruptive, symmetrish angeord-
nete eosinophile Granulome der Haut, Arch.
肩加.exp. Derm・, aw・. 2,82-297, 1961.
17) Bacaredda-boy, A.: Paraxanthomatose (the-
saurotische) System-Histiocytose, Hauiarzt, 11:
58-63, 1960.
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