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あさひかわ緩和ケア講座 2015
第11講 終末期の症状緩和(倦怠感、輸液、鎮静)
第11講 終末期の症状緩和(倦怠感、輸液、鎮静)
旭川厚⽣病院 緩和ケア科中⻄京⼦
がん終末期の特徴
⾼
機能
低
がん 慢性臓器不全
死
⾼
機能
低死
Lynn J, JAMA; 285: 925-932
⽐較的⻑い期間にわたり機能は保たれ、最後の約2か⽉で急速に機能が低下する経過
時間の経過 時間の経過
急性増悪を繰り返しながら、徐々に機能低下して、最後は⽐較的急な経過
痛み
便秘
不眠
呼吸困難
悪⼼・嘔吐
混乱死前喘鳴腹⽔不穏腸閉塞
⽣存期間〜60 45 30 15 0
死亡(⽇)
0
25
50
75
100
(%)
累積頻度
最新緩和医療学 1999 恒藤
ターミナル前期 6~1か⽉ターミナル中期 数週間ターミナル後期 数⽇死亡直前期 数時間
症状が出現してからの⽣存期間
倦怠感倦怠感
倦怠感の定義倦怠感の定義
• 労働に⽐例しない、⽇常⽣活の妨げとなるほどの、つらく持続する主観的な感覚
• がんやがん治療に関連した⾝体的、精神的、認知的な疲労または消耗感
NCCN, Practice Guidelines in Oncology, 2010
倦怠感の病態⽣理倦怠感の病態⽣理
• ⼀次的倦怠感 (Primary Fatigue)
腫瘍そのものによる倦怠感
• ⼆次的倦怠感 (Secondary Fatigue)
貧⾎、感染や薬剤などに関連する倦怠感
EAPC, Palliative med, 2008
⼆次的倦怠感の原因⼆次的倦怠感の原因
• 貧⾎• 薬剤性• 悪液質• 感染症• 発熱• 電解質異常• ⾎糖値異常
EAPC, Palliative med, 2008
• 腎機能障害• 脱⽔• 栄養障害• 肝機能障害• 精神症状• ほかの⾝体症状
疫 学疫 学
• 進⾏がん患者で頻度の⾼い症状Fatigue(84%), weakness(66%)
• QOLに影響する症状である
• 化学療法中の患者の91%は倦怠感が⽇常⽣活の妨げになっていると感じている
EAPC, Palliative med, 2008
Curt GA, Oncologist, 2000
Stone P, Ann Oncol, 2000
過少認識・過少評価・過少治療過少認識・過少評価・過少治療
• Under-recognized, under-assessed,
under-treated.
• 医師は治療すべき症状と思っていない、患者は我慢するものと思っている
• 66%の患者が医師と倦怠感についての話をしていない
EAPC, Palliative med, 2008
Passik SD, J Pain Symptom Manage, 2002
Vogelzang NJ, Semin Hematol, 1997
スクリーニングスクリーニング
• 『だるいですか?』• 『かったるいですか?』• 『こわいですか?』• 『. . . . . . . . . . . ?』
• Numerical Rating Scale (NRS)
まず聞いてみよう!!
診 断診 断
• 理学所⾒など脱⽔
感染
発熱悪液質衰弱
• 病歴/問診NRS
⾝体的精神的認知的
併⽤薬
睡眠障害
• 検査所⾒貧⾎
ビタミンB1, B6, B12
ホルモン
電解質
CRP
TSH
Ca
⽣活への影響
種類
ACTH
Mg
EAPC, Palliative med, 2008
原因の特徴原因の特徴
• 原因は⼀つとは限らない
• 病期ともに原因は変化する
Wang XS, Clin J Oncol Nurs, 2008
Barsevick AM, Clin J Oncol Nurs, 2008
治 療治 療
• 原因治療貧⾎脱⽔感染発熱悪液質電解質異常
薬物療法
ステロイド精神刺激薬
エネルギー温存
⾮薬物療法
うつ病睡眠障害薬剤
輸⾎・エリスロポエチン補液抗⽣剤解熱剤栄養補正、ビスホスホネート抗うつ薬睡眠衛⽣指導、眠剤薬剤の減量・変更
• 症状緩和
エネルギー回復
EAPC, Palliative med, 2008
⼆次的倦怠感貧⾎
⼆次的倦怠感貧⾎
• がん患者の貧⾎の頻度は67%程度
• ヘモグロビン値と倦怠感の関連– 化学療法中では関連する
– 緩和ケア対象では関連なし
• 輸⾎は短期的な効果が得られる場合があるが、終末期では合併症の危険
European Cancer Anaemia Survey(ECAS), 2004
Jacobsen PB, 2004. Eisenstaedt R, 2006
Munch TN, 2005. Stone P, 1999
EAPC, Palliative med, 2008
⼆次的倦怠感抑うつ・うつ病
⼆次的倦怠感抑うつ・うつ病
• 抑うつと倦怠感は関連している
• 抗うつ薬が有効な場合があるが、逆に倦怠感の原因になることもある
• 効果発現に時間がかかる(2~4週間)
Respini D, Crit Rev Oncol Hematol, 2003
EAPC, Palliative med, 2008
うつ病のスクリーニングうつ病のスクリーニング
• うつ病のスクリーニングをしよう(⼆質問法)
①この1か⽉間で気分が沈んだり、ゆううつな気分になることがよくある
②この1か⽉間でどうしても物事に興味がわかない、⼼から楽しめない感じがよくあり
• いずれかが『はい』、感度96%、特異度57%Whooley MA, J Gen Intern Med, 1997
⼆次的倦怠感睡眠障害⼆次的倦怠感睡眠障害
• 不眠の患者は倦怠感を感じやすい
• ⾮薬物療法による睡眠障害の改善によって倦怠感が軽減される可能性
• 睡眠障害の改善により倦怠感が軽減される可能性がある
Roscoe JA, Oncologist, 2007⽯⽥順⼦, Kitakanto Med J, 2011
Dirksen SR, J Adv Nurs, 2008
⼆次的倦怠感感 染
⼆次的倦怠感感 染
• 解剖学的変化や免疫能の低下を背景とした感染が多い
• 腫瘍熱との鑑別が必要
• 緩和ケアを受けている患者の64%が抗⽣剤の投与を受けている、72%が有効
• 抗⽣剤投与前後で倦怠感は改善傾向(有意差はなし)Mirhosseini M, J Palliat Care, 2006
Stiel S, Support Care Cancer, 2011
⼆次的倦怠感腫瘍熱
⼆次的倦怠感腫瘍熱
• 感染症の鑑別は必要
• ①悪寒戦慄に乏しく、熱感のみのことが多い②頻脈や精神状態の変化がないか軽度③アセトアミノフェンに対する反応は乏しい
• ナプロキセンテスト有⽤
• ステロイドよりもナプロキセンが有効
Chang JC, Heart Lung, 1987
Chang JC, J Pain Symptom Manage, 1988
Chang JC, J Clin Oncol, 1985
⼆次的倦怠感薬 剤
⼆次的倦怠感薬 剤
• 抗けいれん薬
• ベンゾジアゼピン• 利尿剤
• オピオイド • 抗ヒスタミン薬
• 抗うつ薬 • αブロッカー
• 抗コリン薬
Oxford Text Book of Palliative Medicine 4th ed
⼆次的倦怠感⾝体症状⼆次的倦怠感⾝体症状
• 下記症状は倦怠感が強い患者は倦怠感が強い– 疼痛– 発熱– 呼吸困難– 睡眠障害– 嘔気– 下痢
平井和恵, J Kitakanto Med J, 2008
原因治療の益と害のバランス原因治療の益と害のバランス
メリット
デメリット
がんの進⾏ 死
デメリット
メリット
治療適応のギアチェンジ⾒極め
症状緩和の薬物療法ステロイド
症状緩和の薬物療法ステロイド
• ステロイドは進⾏がんに伴う倦怠感やその他の原因による倦怠感を改善するかもしれない
Bruera E, Cancer Treat Rep, 1985
• 倦怠感に対する効果に対するエビデンスは⼗分ではないが経験的に使⽤されている
• ステロイドは予後と効果・副作⽤を考えて使⽤– 予後予測が3ヶ⽉未満の場合に投与を検討– ⾼⾎糖、胃潰瘍、精神症状などの副作⽤
PEACEプロジェクト; 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より
症状緩和の薬物療法ステロイド
症状緩和の薬物療法ステロイド
• ステロイドの定期投与 (処⽅例)• ベタメタゾン(リンデロン®) 0.5mg/⽇から開始し、
0.5mg ずつ 4mg/⽇まで増量• ベタメタゾン(リンデロン®) 4〜6mg/⽇を数⽇投与す
る。効果がない場合は中⽌し、効果を認める場合は漸減し、効果の維持できる最⼩量 (0.5〜4mg/⽇)で継続する。
– 投与は昼頃までに⾏い24時間持続投与はなるべく避ける
– ⾄適⽤量・投与法に関して明確なエビデンスはない
PEACEプロジェクト; 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より
症状緩和の薬物療法神経刺激薬
症状緩和の薬物療法神経刺激薬
• ペモリンはメチルフェニデートと同様に倦怠感に有効
Breitbart W, Arch Intern Med, 2001
• 精神刺激薬(メチルフェニデート)の有効性の予測因⼦抑うつ、眠気があるかないかは有効性と無関係倦怠感が強いほど有効投与1⽇⽬に有効であれば、⻑期的に有効な可能性
AIDS患者の倦怠感を対象としたランダム化⽐較試験(RCT)
Yennurajalingam S, Oncologist, 2011
• 本邦での実態調査80%の緩和ケア病棟でメチルフェニデートを使⽤半数の緩和ケア医が倦怠感に対して適応と考えていた
Matsuo N, JPSM, 2007
症状緩和の⾮薬物療法エネルギー温存(法)
• 患者とその介護者によるセルフケア• 体⼒の消耗を避けるために意図的にエネルギー
消費を調節する• 活動と休息のバランスを取ることで価値ある活
動を続けられるようにするNCCN, Practice Guidelines in Oncology, 2009
• 患者が⼤事にしたいこと、優先したいことを⼀緒に考えることが重要
PEACEプロジェクト; 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より
• エネルギー配分– 倦怠感が少ない(エネルギーが⾼い)時間帯を知る– エネルギーが⾼いときに優先度の⾼いことをする
• エネルギー温存の⼯夫– ⽣活で必要なものが⼿に届きやすいように配置する– やりたいことは体調に合わせて1つずつ実⾏してゆく
• 休息の取り⽅– 1⽇の中で少しずつ何回かに分けて休息をとる– 不眠の場合、睡眠薬を使⽤する
Barsevick AM, Cancer, 2004
PEACEプロジェクト; 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より
症状緩和の⾮薬物療法エネルギー温存(法)
• ⼗分な休養• 瞑想によるストレスの軽減• リラクゼーション• 楽しみにつながるアクティビティーに参加
するEAPC, Palliative med, 2008
症状緩和の⾮薬物療法エネルギー回復
がん悪液質がん悪液質
• 従来の栄養サポートで改善することは困難で、進⾏性の機能障害をもたらし、著しい筋組織の減少を特徴とする複合的な代謝障害症候群である。
• 病態⽣理学的には、経⼝摂取の減少と代謝異常による負のタンパク、エネルギーバランスを特徴とする
Clinical practice guidelines on cancer cachexia in advanced cancer patients with a focus on refractory cachexiahttp://www.epcrc.org/
悪液質のステージ分類悪液質のステージ分類
体重減少 < 5%⾷欲不振代謝異常
体重減少 > 5%BMI<20+体重減少>2%⾷事摂取量低下全⾝性の炎症
前悪液質 悪液質 治療不応性悪液質
Death
異化亢進状態抗がん治療の効果がなくなるPS低下< 3か⽉予測される予後
Normal
Clinical practice guidelines on cancer cachexia in advanced cancer patients with a focus on refractory cachexiahttp://www.epcrc.org/
悪液質の疫学悪液質の疫学
• がん患者の死因の30%程度を占める⼤澤ら, ⽇本緩和医療薬学雑誌, 2012
Dewys WD, JAMA, 1980
• 体重減少は腫瘍の種類によって異なる⾼頻度群
(80%以上)
胃癌、膵癌
中間頻度群(50〜60%)
肺癌、⼤腸癌前⽴腺癌
低頻度群(50%以下)
悪性リンパ腫乳癌
悪液質のメカニズム悪液質のメカニズム
「痩せているのに⾷欲がない」
レプチン様シグナルの過剰状態
⾷欲不振・⾷事摂取低下
「痩せているのにさらに消耗」
• UCP発現増強• Coriサイクル活性化• 腫瘍産⽣物質(LMF,PIF)
による筋⾁、脂肪の崩壊
エネルギー消費亢進体重減少
サイトカイン
飢餓と悪液質の違い飢餓と悪液質の違い
Inui A, CA Cancer J Clin, 2002
飢餓 悪液質
エネルギー摂取 ↓ ↓
エネルギー消費 ↓ ↑
糖代謝 ↓ ↑
体脂肪分解 ↑ ↑
⾻格筋分解 → ↑
2次性⾷欲不振2次性⾷欲不振• 胃炎、味覚障害、亜鉛⽋乏• ⼝渇、脱⽔• 齲⻭、義⻭不適合、⻭⽛⽋損• 嚥下障害、嚥下時痛• 逆流性⾷道炎• 腸閉塞• 嘔気、嘔吐• 他の⾝体症状(疼痛、呼吸困難など)• 意識障害(せん妄など)• 慢性的な下痢
Oxford Text Book of Palliative Medicine 4th ed
2次性悪液質2次性悪液質
• ⻑期臥床、廃⽤症候群• ⻑期コルチコステロイド投与• 加齢• 頻回な腹⽔、胸⽔排液• ネフローゼ症候群
⾻格筋減少、蛋⽩質減少Oxford Text Book of Palliative Medicine 4th ed
薬物療法薬物療法
• コルチコステロイド
• プロゲステロン製剤– ⻩体ホルモン– 本邦ではメドロキシプロゲステロン(ヒスロン®H)– ⽉単位の予後の場合に使⽤– 深部静脈⾎栓症に注意
• エイコサペンタエン酸 (EPA)– 抗炎症作⽤– ⼀般⾷品(プロシュア®)1⽇2回でEPA2.2g摂取
Colomer R, Br J Nutr, 2007
恒藤 暁, 最新緩和医療学, 1999
がんの進⾏とエネルギー消費量がんの進⾏とエネルギー消費量
エネルギー補給
93.4(n=43)
102.3(n=17)
113.6(n=12)
86.9(n=8)
栄養管理の変更
飢餓 飢餓+担癌 担癌 悪液質(不可逆)
REE/BEE(%)120
110
100
90
80
悪液質の進展
東⼝⾼志, 静脈経腸栄養, 2009
REE:実測エネルギー消費量BEE:安静時基礎エネルギー消費量
栄養管理栄養管理
栄養療法の適応
栄養療法の可能性あり
栄養療法の弊害がでる可能性
前悪液質 悪液質 治療不応性悪液質
DeathNormal
輸 液輸 液
輸液に関する⽣理学的知識輸液に関する⽣理学的知識• ⽣理学的に必要な⽔分量
– 健康⼈は1⽇に30〜35ml/kg/⽇の輸液が必要– 終末期がん患者においては、⽣理的必要量は減少するため、
輸液量は500〜1000mlの範囲が妥当である• ⽣理学的に必要なカロリー量
– ⼀般的な1⽇必要エネルギー量:基礎エネルギー消費量 X 活動因⼦ X 侵襲因⼦
– 終末期を除く担がん症例はエネルギー消費量が亢進、終末期で悪液質を合併するとエネルギー消費量は減少する
• ⽔分の⾎管内保持– 平均的成⼈に妥当な輸液量でも、膠質浸透圧の低下した終末
期がん患者にとってはサードスペースに貯留して、医原的な浮腫や胸⽔・腹⽔の原因となる
終末期における⾼カロリー輸液終末期における⾼カロリー輸液
• 以下の基準を満たす場合、有益な可能性あり– 経⼝摂取、経管栄養ができない
– 腫瘍の進展より早く飢餓による全⾝状態悪化が予想されるとき(嚥下障害など)、予後が2-3か⽉あるとき
– PSやQOLの改善が期待できる
– 患者や家族からの強い希望がある
Bozzetti F, et al. Clin Nutr 2009
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1
腹⽔と輸液腹⽔と輸液
T. Morita, Ann Oncol. 2005
症状 強い
• 1000ml以上の輸液により、腹⽔による症状が悪化する可能性がある。
死亡3週間前 死亡1週間前 死亡1週間前
:輸液群(n=59):⾮輸液群(n=167)
P=0.005
腹⽔の時の補液の推奨腹⽔の時の補液の推奨• ⽣命予後が1か⽉程度と考えられる、経⼝的に⽔分摂取が500mL/⽇程度可能
な終末期がん患者に対して、がん性腹⽔による苦痛がある場合、腹⽔による苦痛を悪化させないことを⽬的として、 患者・家族の意向を確認し、輸液を⾏なわないことを推奨する
【強い推奨、低いエビデンスレベル】 500-1000mL/⽇の維持輸液を⾏うことを考慮する
【弱い推奨、とても低いエビデンスレベル】
• ⽣命予後が1か⽉程度と考えられる、経⼝的な⽔分摂取ができないがん性腹⽔による苦痛がある終末期がん患者に対して輸液を⾏う場合、腹⽔による苦痛を悪化させないことを⽬的として、1000mL/⽇以下の維持輸液を⾏うことを推奨する
【強い推奨、とても低いエビデンスレベル】
• ⽣命予後1か⽉程度と考えられる、経⼝的な⽔分摂取ができず、1500-2000mL/⽇の輸液を受けている終末期がん患者に対して、がん性腹⽔による苦痛が増悪する場合、腹⽔による苦痛を軽減することを⽬的として、輸液量を1000mL/⽇以下に減量することを推奨する
【強い推奨、低いエビデンスレベル】
http://www.jspm.ne.jp/guidelines/glhyd/2013/pdf/03_01_01.pdf
⼝渇と輸液⼝渇と輸液
• 輸液は⼝渇を緩和しない– 丁寧な看護ケアが有効である– ⽔分の摂取、氷⽚、⼝腔ケア
Fainsinger RL, et al. Support Care Cancer 1997McCann RM, et al. JAMA 1994
終末期癌患者に対する輸液治療のガイドライン 2006
喘鳴と輸液喘鳴と輸液
• ⽣命予後が数⽇と考えられる患者に気道分泌による苦痛を認めた場合、気道分泌による苦痛の緩和を⽬的として
– 輸液量を500ml以下に減量または中⽌する
終末期癌患者に対する輸液治療のガイドライン 2013
患者・家族の考え患者・家族の考え
• 輸液をしないと必要な栄養が得られない• 輸液をしないと死期が早まる• ⽔分補給をしないと患者が苦しくなる
• 輸液のせいでさらに苦痛が増える
Parkash R, et al. J Palliat Care 1997Morita T, et al. Am J Hosp Palliat Care 1999
ケアケア
• 『何かをしてあげたい(何もしてあげられない)』という気持ちに対して傾聴・共感し、対応する
• ケアをしていることを⽰す他の⽅法は?– 必要とされていることを伝える– 清潔ケア– マッサージやタッチング
McClement SE, J Palliat Med, 2003
輸液の適応輸液の適応全般的な治療の⽬標の設定
選択枝の包括的な⽐較検討1)治療⽬標への影響
・⾝体的苦痛(脱⽔ vs 体液過剰)・⽣命予後への影響・精神⾯(希望など)・⽣活への影響
2)倫理的・法的妥当性
治療の実施患者・家族と相談し、治療を実施する
定期的な評価と修正終末期癌患者に対する輸液治療のガイドライン 2013
鎮静(苦痛緩和のための)鎮静(苦痛緩和のための)
鎮静にかかわるストレス鎮静にかかわるストレス
鎮静にかかわるストレスのために仕事をやめたくなる 30%
鎮静にかかわることは負担だ 12%
できれば鎮静の施⾏に関わりたくない 11%
今までしてきたことに意味がなかった気持ちになる 4.1%
• 看護師3,187名の質問紙調査、96%(2607名)が持続的深い鎮静を経験
Morita T, Palliat Med 2004
定義定義
• 患者の苦痛緩和を⽬的として、患者の意識を低下させる薬剤を投与すること
• 患者の苦痛緩和のために投与した薬剤によって⽣じた意識の低下を意図的に維持すること
頻 度頻 度0 10 20 30
0%
-5.0%
-20%
-40%
-60%
-80%
(%)
• 平均 28%(520/1841)
41%
53%
6.2%
• 持続的深い鎮静が必要な患者は20〜35%程度Morita T, Support Care Cancer, 2004
ばらつきの要因ばらつきの要因
•臨床医の医学的実践が影響していた
•はっきりした意識が良い死に必要であるとは考えていない
•鎮静はしばしば⽣命予後を短縮させるとは考えていない
•がん・緩和ケアの専⾨看護師とともに働いている
•治療を実際に試さずとも緩和困難として判断する
•間⽋的鎮静よりも持続的鎮静を第⼀に⾏う
•フェノバールをよく使⽤するMorita T, Support Care Cancer, 2004
バラつきの結果バラつきの結果
• 鎮静が不要なのに、不必要な意識低下
• 鎮静が必要なのに、不必要な苦痛
対象症状対象症状
• せん妄• 呼吸困難• 倦怠感• 疼痛• 嘔気・嘔吐• 精神的苦痛
苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010年版
13.1%11.5%8.9%5.1%1.8%1.2%
浅い鎮静⾔語的・⾮⾔語的コミュニケーションができる程度の軽度の意識低下
深い鎮静⾔語的・⾮⾔語的コミュニケーションができない深い意識低下
間⽋的鎮静⼀定期間意識の低下をもたらした後に薬物を中⽌・減量
持続的鎮静中⽌する時期をあらかじめ定めずに、意識の低下を維持
2. 鎮静⽅法
1. 鎮静⽔準分類分類
分 類分 類
持続的 間⽋的
深い 持続的深い鎮静 間⽋的深い鎮静
浅い 持続的浅い鎮静 間⽋的浅い鎮静
⽔準⽅法
• ⼀般⼈⼝(457名)
間⽋的鎮静 持続的浅い鎮静 持続的深い鎮静 安楽死
• 医師(腫瘍医、緩和ケア医)(697名)
間⽋的鎮静 持続的浅い鎮静 持続的深い鎮静 安楽死
• 持続的深い鎮静と間⽋的鎮静・浅い鎮静は分けて考えるべき
Morita T, J Pain Symptom Manage, 2003
鎮静と安楽死
鎮静と安楽死の違い鎮静と安楽死の違い
鎮静 安楽死意図 苦痛の緩和 患者の死亡
⽅法苦痛緩和に必要量の鎮静薬
例. ミダゾラム持続投与
致死性薬物の投与例. バルビツール
⼤量1回投与
好ましい結果 苦痛の緩和 患者の死亡
好ましくない結果 患者の死亡 患者の⽣存
European Association of Palliative Care, Ethics task forceEur J Palliat Care 2003
⽣命に及ぼす影響⽣命に及ぼす影響Ventafridda
1990Stone1997
Fansinger1998
Chiu2001
Sykes2003
対象数 120 115 79 251 237鎮静を受けた
患者 25⽇ 19⽇ 9±5⽇ 28±36⽇ 11-17⽇
鎮静を受けなかった患者 23⽇ 19⽇ 6±7⽇ 25±31⽇ 13-16⽇
p 0.57 > 0.2 0.09 0.43 0.23
• 鎮静は75%以上の患者で有効であり、重篤な合併症や直接作⽤による⽣命短縮は少ない
• ⽇本の緩和ケア病棟では、鎮静後に致死的な変化が出現したのは3.9%
Morita T, et al : J Pain Symptom Manage 2005
倫理的妥当性倫理的妥当性1. 意図
2. ⾃律性
3. 相応性
苦痛緩和を⽬的としていること
患者の⾃律的な意思を尊重するべきである
好ましくない効果を許容できる相応の理由がある場合倫理的に妥当1)予測される益が予測される害をうわまわること2)著しい苦痛がある3)他の⼿段では緩和される⾒込みがない4)患者の死期が迫っている
苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010年版
鎮静の実施鎮静の実施
(4)患者・家族への説明と意思確認
(3) 全⾝状態・⽣命予後の評価
(2) 治療抵抗性の苦痛
(1) 耐えがたい苦痛
ありなし
なしあり
適応外
鎮静の希望あり鎮静の希望なし
適応外
適応外
浅い鎮静・間⽋的鎮静
深い持続的鎮静無効
(1)(2)(3)(4)全てが評価・実施され条件を満たす場合のみ鎮静の適応となる
PEACEプロジェクト緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より
鎮静の実施鎮静の実施
(4) 患者・家族への説明と意思確認
(3) 全⾝状態・⽣命予後の評価
(2) 治療抵抗性の苦痛
(1) 耐えがたい苦痛
ありなし
なしあり
適応外
鎮静の希望あり鎮静の希望なし
適応外
適応外
浅い鎮静・間⽋的鎮静
深い持続的鎮静無効
倫理的妥当性3-2)
耐え難い苦痛耐え難い苦痛• 患者⾃⾝が耐えられないと表現する
あるいは
• 患者が表現できない場合、患者の価値観に照らして、患者にとっての耐え難いことが家族や医療チームにより⼗分推測される
• 対象症状• せん妄、呼吸困難、疼痛などの⾝体症状• 不安、抑うつ、⼼理・実存的苦痛が単独で持続的深い
鎮静の対象となることは例外的
PEACEプロジェクト; 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より
鎮静の実施鎮静の実施
(4)患者・家族への説明と意思確認
(3) 全⾝状態・⽣命予後の評価
(2) 治療抵抗性の苦痛
(1) 耐えがたい苦痛
ありなし
なしあり
適応外
鎮静の希望あり鎮静の希望なし
適応外
適応外
浅い鎮静・間⽋的鎮静
深い持続的鎮静
無効
倫理的妥当性3-3)
治療抵抗性の苦痛治療抵抗性の苦痛
• すべての治療が無効• 患者の希望と全⾝状態から考えて、予測され
る⽣命予後までに有効で、かつ、合併症の危険と侵襲を許容できる治療⼿段がないこと
• 検討すべきこと- 原因治療・対症療法が⼗分に⾏われていか- 寄与因⼦- Time-limited trial
PEACEプロジェクト; 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より
治療抵抗性判断チェックリスト
治療抵抗性判断チェックリスト
資料1 治療抵抗性判断のためのチェックリスト鎮静を考慮している苦痛を同定し,以下の項⽬について確認してください
①せん妄□ 環境調整を⾏ったか□ 治療可能な原因を探索し,治療を検討したか(⾼カルシウム⾎症,低ナトリウム⾎症,⾼アンモニア⾎症,感染症,
低酸素⾎症,⾎糖異常,脱⽔,脳腫瘍など)□ 薬剤の調整を検討したか(必須ではない薬剤・神経毒性を有する薬剤の減量・中⽌・変更)□ 疼痛・呼吸困難など緩和されていない苦痛の治療を検討したか□ 残尿,便秘による不快がないか□ 向精神薬投与を検討したか
http://www.jspm.ne.jp/guidelines/sedation/2010/index.php
鎮静の実施鎮静の実施
(4)患者・家族への説明と意思確認
(3) 全⾝状態・⽣命予後の評価
(2) 治療抵抗性の苦痛
(1) 耐えがたい苦痛
ありなし
なしあり
適応外
鎮静の希望あり鎮静の希望なし
適応外
適応外
浅い鎮静・間⽋的鎮静
深い持続的鎮静
無効
倫理的妥当性3-4)
予後予測予後予測
• 医師による⽣存期間の予測は正確ではなく、楽天的な傾向にある
1週間以内の誤差 25%、4週間以内の誤差 27%
• 医師と患者の関係が強いほど、予後予測が不正確
• 経験のある医師ほど予後予測が正確• 通常、持続的深い鎮静の対象となる患者の
⽣命予後は数⽇以下(~2,3週以内)PEACEプロジェクト; 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より
鎮静の実施鎮静の実施
(4)患者・家族への説明と意思確認
(3) 全⾝状態・⽣命予後の評価
(2) 治療抵抗性の苦痛
(1) 耐えがたい苦痛
ありなし
なしあり
適応外
鎮静の希望あり鎮静の希望なし
適応外
適応外
浅い鎮静・間⽋的鎮静
深い持続的鎮静
無効
倫理的妥当性 2
患者・家族に鎮静を説明する• 全⾝状態と予後予測
• 全⾝状態についての⼀般的説明• 根治的な治療法がないこと• 予測される状態と予後
• 治療抵抗性の苦痛• 治療抵抗性の苦痛の存在とその原因• 鎮静以外で苦痛緩和が得られないと判断した根拠
• 鎮静の⽬的と⽅法• 苦痛の緩和である• 意識を低下させる薬剤を投与する• 全⾝状態に応じて中⽌することができる
PEACEプロジェクト; 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より
患者・家族に鎮静を説明する
• 鎮静が与える影響- 予測される意識低下の程度、精神活動・コミュニケー
ション・経⼝摂取・⽣命予後に与える影響、合併症
• 鎮静後の治療やケア- 苦痛緩和のための治療やケアは継続される- 患者・家族の希望が反映される
• 鎮静を⾏わなかった場合に予測される状態- 他の選択肢、苦痛の程度、予測される予後
PEACEプロジェクト; 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より
鎮静の⽣命予後に対する影響
• 適切に鎮静を⾏えば、⽣命予後に対する影響は極めて低い
• 多くの観察的研究では、死亡までの期間に有意差なし
• わが国の緩和ケア病棟の調査では、鎮静後に致死的な変化が出現したのは3.9%
PEACEプロジェクト; 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料よりMorita T, et al : J Pain Symptom Manage 2005
⼈⼯的な⽔分・栄養の補給について
• ⼈⼯的な⽔分・栄養の補給は、患者・家族の意思、苦痛緩和から、患者の「益と害」を総合的に評価する
• ⽔分・栄養の補給は、鎮静とは別に判断する
• ⽔分・栄養補給による体液過剰兆候が苦痛を増悪させる場合、患者・家族の意思を尊重したうえで、減量・中⽌を検討する
PEACEプロジェクト; 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より
患者・家族の希望を確認する
• 患者に鎮静の希望がある、または希望があると推定される意思決定能⼒がある場合、必要な情報を提供されたうえでの明確な意思表⽰がある
意思決定能⼒がない場合、患者が希望することが推測される→不明確な場合は専⾨家へコンサルテーションする
• 鎮静に対する家族の同意がある
PEACEプロジェクト; 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より
鎮静の実施鎮静の実施
(4)患者・家族への説明と意思確認
(3) 全⾝状態・⽣命予後の評価
(2) 治療抵抗性の苦痛
(1) 耐えがたい苦痛
ありなし
なしあり
適応外
鎮静の希望あり鎮静の希望なし
適応外
適応外
浅い鎮静・間⽋的鎮静
深い持続的鎮静
無効
鎮静⽅法の検討鎮静⽅法の検討
⾝体的苦痛 精神的苦痛
鎮静なし 2.6% 12%
浅い鎮静 27% 22%
間⽋的鎮静 55% 45%
持続的深い鎮静 4.6% 7.2%
⾃殺幇助・安楽死 11% 14%
Morita T. J Palliat Med 2002
• 耐えがたい苦痛のときに希望する治療(n=457)
鎮静⽅法の決定鎮静⽅法の決定
• 苦痛を緩和できる範囲で、意識⽔準や⾝体機能に与える影響が最も少ない⽅法を
- 間⽋的鎮静や浅い鎮静を優先して⾏う- 不⼗分であれば持続的深い鎮静を⾏う
• 患者の苦痛が著しく強く、治療抵抗性が確実• 死亡が数時間から数⽇以内に⽣じることが確実
- 持続的深い鎮静を最初に選択してもよい
苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010年版
間⽋的鎮静に使⽤する薬剤間⽋的鎮静に使⽤する薬剤
• ミダゾラム–10mg+⽣⾷100ml 点滴–1〜2mg/回 ⽪下注
• フルニトラゼパム–0.5〜2mg+⽣⾷100ml 緩徐に点滴
苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010年版
持続的鎮静に使⽤する薬剤持続的鎮静に使⽤する薬剤• ミダゾラム
– 開始量0.2〜1mg/時間 持続静注・⽪下注– レスキュー1.25〜2.5mg/回 静注・⽪下注
• フルニトラゼパム• フェノバルビタール
– 開始量40mg〜50mg/時間 持続⽪下注– 12時間後に20mg /時間に減量
• ジアゼパム坐薬
オピオイド・ハロペリドールは、持続的深い鎮静に⽤いる主たる薬剤としては推奨しない
鎮静の苦痛緩和効果
• 医療者による評価ミダゾラムで98%、その他の薬剤で75%以上の苦痛緩和の効果が認められた
Cowan JD, et al. Support Care Cancer 2001
• わが国の緩和ケア病棟医による評価83%の患者において症状緩和が可能であった
Morita T, et al : J Pain Symptom Manage 2005
• わが国の家族による評価88%の患者において苦痛は緩和されていた
Morita T, et al : J Pain Symptom Manage 2004
PEACEプロジェクト; 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より
家族の満⾜度家族の満⾜度
• 78%の遺族は鎮静に満⾜• 25%は強い精神的苦痛• 家族が精神的につらくなった要因
– 鎮静後に苦痛が⼗分に緩和されなかった– 意思決定の責任を負うことが負担これから– 患者の状態の変化に⼼構えができていなかった– 医師や看護師に気持ちを⼗分に汲み取ってもらえな
いと感じた
7緩和ケア病棟の遺族280名を対象とした質問紙調査
家族のケア家族のケア
• 鎮静開始後、効果を定期的に評価し、苦痛緩和が達成されるよう迅速に修正する
• 患者の状態、苦痛の程度、予測される変化を説明
• 意思決定過程を共有し家族に決定を⼀⽅的にゆだねない
• 家族の⼼配や不安を傾聴し、悲嘆や⾝体・精神負担に対する⼗分な⽀援を⾏う
Morita T, et al : J Pain Symptom Manage 2004
Take Home Message!Take Home Message!• 倦怠感は⾼頻度な症状であるが、⾒逃され
ていることが多い、スクリーニングを積極的に⾏う
• 倦怠感の可逆的な原因がないかを検討し、患者の利益になる場合には原因治療を⾏う
• 終末期の輸液は、益と害のバランスを考慮して適応を検討する
Take Home Message!Take Home Message!
• 終末期では、治療抵抗性の症状に対して症状緩和のための鎮静が必要となることがある
• 鎮静の適応は医療チームの適切な判断に基づく、患者・家族との話し合いの結果で導き出される
• 終末期には、輸液・鎮静など多くの介⼊で倫理的検討が必要である
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